過去の「新星?」おひつじ座SVが1世紀ぶり?のアウトバースト、矮新星と判明

著者 :山岡均(九大理)

 変光星の資料などで新星と分類されている天体の中には、本当に新星かどうか確証がとれていないものが少なからずあります。古い乾板に写っていたことが後から見つかったもの、星図でプロットされていたもののあとから対応する天体がないことが判明して新星ではないかと思われているもの、などです。スペクトル的な観測は当然ないために新星以外の突発的天体の可能性もありますし、それどころか小惑星などの誤認という可能性もあります。

 変光星観測者の方の中には、このような星を反復新星か矮新星のような再びアウトバーストを示す天体ではないか?と注目してモニターを行っている方々もいます。アウトバーストの可能性はもともとないに等しいような天体ですが、それでも熱心な観測の甲斐あって、このような天体の中からときに矮新星や反復新星、時にはX線新星のような天体が見つかることがあります。

 おひつじ座SVもそんな天体の一つでした。この天体は1905年にドイツのウォルフ氏の撮影した乾板に12等級の像が見つかり命名された天体で、その後1943年に一度アウトバーストがあったのでは?というあまり確実でない報告がありましたが、それを除けばアウトバーストはまったく見られませんでした。そのためGCVS(変光星総合カタログ)でも「N:(Nは新星、:は不正確の意味)」とされていました。静穏時の状態にあたる天体がどの星か、も長らくはっきりせず、近年やっと22等の天体と同定されましたが、やはり新星かどうかは明らかではありませんでした。

 しかし、2011年8月2.788日、オーストラリアのスタビングス氏により、この星が106年ぶりに15.0等に明るくなっていることが報告されました(1943年のものを含めば68年ぶりとなります)。すぐにこのニュースは世界に伝えられ、各地で確認観測が行われました。結果、これは確かにアウトバーストであることが判明しました。

 その後、イタリアのマシ氏により、連続測光観測が行われました。この観測からは周期が1.3時間前後の変動らしきものが受かり、これはこのアウトバーストがおおぐま座SU型矮新星のスーパーアウトバーストであり、スーパーハンプを示している可能性を強く示します。その後、アウトバーストの報告を受けた観測者により各地で観測が行われ、そこでもスーパーハンプが捉えられたことからこの天体がおおぐま座SU型矮新星であることが判明しました。

 これまでに報告された観測は以下のとおりです(連続測光観測を除きます)。< は天体が見えなかったこと(上限値)、CはCCDによるノーフィルター観測、VはCCDによるV等級を示します。

  20110207.883  <169C  (Ian Miller、イギリス)
  20110212.856  <146  (Gary Poyner、イギリス)
  20110802.788   150  (Rod Stubbings、オーストラリア)
  20110802.803   150  (Rod Stubbings)
  20110802.822   150  (Rod Stubbings)
  20110803.062  15.52C  (Tamas Tordai、ハンガリー)
  20110803.075  15.53C  (Tamas Tordai)
  20110804.094   153  (Gary Poyner)
  20110804.498  15.435V  (Kevin B. Paxson、アメリカ合衆国)
  20110804.771   152  (Rod Stubbings)

 発見された際の光度は15.0等と、かつて報告されていた数値より3等ほど暗い数字です。これは、当時の光度体系が現在とは大きく違っていたこと、今回のアウトバーストの発見がやや遅かったためにもっとも明るかった時期が欠測となっている可能性、などのためだと思われます。残念ながら、15等という暗さのために眼視観測ではやや大きな望遠鏡を必要とするのですが、冷却CCDをお持ちの方は比較的容易にその姿を捉えられることでしょう。

 前にも述べたように、このような発見はアウトバーストの保証のない天体の観測を、日々続く「星像が見当たらない」という結果にも諦めず粘り強く行った結果つながるものです。連日の熱心な観測が実った、すばらしい成果といえるでしょう。

参考文献

2011年8月7日

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