分光確認が遅れた近傍銀河の超新星

著者 :山岡均(九大理)

 2011年1月から、国際天文学連合天文電報中央局では、太陽系外の新天体発見について新たな取り扱い方法を導入しました。これまでにも何度か紹介してきた新天体確認ページTOCP(Transient Objects Confirmation Page)です。
  http://www.cbat.eps.harvard.edu/unconf/tocp.html

 新天体発見をめざす人は、あらかじめ投稿するための登録をしておくと、自分の発見報告を直接投稿することができます。電子メールなどの従来の方法で報告された発見報も、このページに載せられます。すると世界中の観測者が、このページに掲載された天体を追跡観測し、明るさや位置などをこのページに投稿します。研究者などによって分光観測され、天体の素性が判明すると、新天体は回報(IAUC)もしくは電子速報(CBET)で広く報じられ、この段階で新星や超新星としての符号が付与されます。TOCPによって、新天体の確認プロセスが広く共有されることになったのです。

 しかし時折、確認プロセスがうまく機能しないことがあります。先月20日に発見された、超新星2011ehのようすを紹介します。

 この天体は広島市の坪井正紀さんが、7月20.48日(世界時、以下同様)に撮影した画像上に発見して報告したものです。坪井さんが測定した位置は、

赤経 11時18分31.7秒
赤緯 +57度58分37.2秒 (2000年分点)

で、おおぐま座の楕円銀河NGC 3613の中心から西に36秒角、南に83秒角のところにあたります。発見時には16.2等級でしたが、この位置には6月3日には19等より明るい天体はありませんでした。

 発見情報がTOCPに掲載されると、天体の追観測によって得られた情報が続々と報告されました。発見前の7月17.527日に山形県の板垣公一さんが撮影した画像には、この天体が17.5等で写っていました。天体はみるみる増光し、23日には15等ほど、25日以降は14等台の明るさであったと報告されています。北斗七星のひしゃくの中にあたり、北半球から見やすい位置であることから、多くの観測者が追跡したことがわかります。

 ところが、この天体はなかなか分光されないまま放置されました。7月30日になってようやく分光観測が行なわれた結果、この超新星は、核爆発型超新星のなかでもあまり明るくない、超新星1991bgに似たものであることが判明したのです。それを受けて、CBET 2776が発行され超新星が報じられたのは8月3日のことでした。発見から分光まで10日、広報まで2週間が経過しています。

 核爆発型超新星は、ひじょうに遠い銀河の距離を測るための標準光源としてたいへん重要視されています。1980年代には、極大での真の明るさ(絶対等級)は、どの核爆発型超新星でも一様であると考えられ、観測された明るさと比較することで距離を知る指標として期待されていました。しかし、1991年になって、真の明るさが典型的な核爆発型超新星よりも明るい例(超新星1991T)や暗い例(超新星1991bg)が報告され、この一様性に疑問が生じました。多くの観測例から、極大後の減光率と真の明るさとの間に経験的な相関関係が見いだされて、標準光源としての利用には道が開けたのですが、この相関関係のメカニズムは今なお不明で、特に爆発後間もない観測情報は決定的に重要です。分光してみないことには、重要なのかどうかすらわからないわけで、メカニズムの解明にとって絶好のチャンスが失われたことは、たいへん残念なことです。

 20年前に超新星1991bgを発見したのは、山梨県の串田麗樹さんでした。超新星1991Tを発見したのも天文愛好家です。これ以降、超新星の発見・確認・分光のプロセスを早めることで、超新星発見から引き出される科学的知見は飛躍的に増加してきました。今後もこの流れを止めないようにしていく努力が研究者の側に必要である、と自戒とともに考えています。

参考文献

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