すっかり寒くなり、宵の夜空には冬の星座が輝く季節となりましたが、そんな冬の代表星座の一つであるオリオン座に新しい変光星が発見されました。
この天体は「MISAOプロジェクト」と呼ばれるサーベイによって発見された天体です。MISAOプロジェクトとは、神奈川県の吉田誠一さんによって運営されている新天体発見プロジェクトです。新天体の発見には多くの星空の撮像を行い、そこに新天体が現れていないか確かめる必要がありますが、このプロジェクトでは多くのアマチュアを中心とした観測家によって撮影されたCCD画像を集約させ、それらの画像に新天体がないか捜索するという形で捜索を行っています。これまでにも突発的天体をはじめとして多くの成果をあげてきており、発見された変光星の数は1400以上にも及びます。
今回の発見は、岡山県の中島洋一郎さんによってCCDカメラを取り付けた25cmライト・シュミット望遠鏡を用いて撮影、提供された画像からなされました。2011年1月8.59707日(世界時)に撮影した画像から、過去に同位置を撮影した画像にはない天体が見つかり、新天体であろうということになったのです。この新天体は光度が14.4等(発見時、CCDノーフィルター)で、冒頭にも述べたようにオリオン座にあります。正確な位置は、
赤経 6時19分59.96秒 赤緯 +19度26分59.0秒 (2000.0年分点)
です。
また、この報告を受け、Korotkiy Stasさん(ロシア)がCCDカメラを装着した135mm望遠レンズを用いて撮影した画像を調査したところ、1月1日にはすでに増光して12.8等まで明るくなっていることが判明しました。MISAOプロジェクトによって検出された時には、すでに極大を過ぎて減光しつつある段階だったようです。
デジタルスカイサーベイによって過去に撮像された画像では対応する位置付近に20.4等(B等級)前後の天体があり、これが爆発前の天体だとすると変光範囲は8等前後となり、この変光範囲の大きさは増光範囲が大きな矮新星の可能性を示唆しています。この天体はMISAOプロジェクトによって発見された1443番目の変光星ということで、MisV1443という仮の名前がつけられました。
その後、Enrique de Miguelさん(スペイン)によってCCDによる連続測光観測が行われ、変光範囲0.08等級程度の変動がとらえられました。その変動の様子から、この天体は矮新星の中でも増光がまれといわれているや座WZ型矮新星とよばれるサブタイプに属する可能性があります。現在も多くの観測者によってスーパーハンプと呼ばれる軌道周期よりやや長い変動が観測されており、その周期は約81分と求められています。また、カナダの1.8m プラスケット望遠鏡と京都産業大学神山天文台の新井彰さんによって行われた分光観測では青い連続光成分に広い水素の吸収線が重なったスペクトルが見られており、スペクトルからもこの天体が増光中の矮新星であることを示されています。
や座WZ型の矮新星は増光がまれなことから、これまであまり観測がなされず研究が遅れていたターゲットでした。VSOLJニュース No.255, No.259でも新たなや座WZ型の矮新星候補天体の発見が報じられましたが、近年MISAOプロジェクトをはじめとする各種サーベイが活発に行われることによって漸く研究が進みつつあります。今後、その謎だった素性が明らかにされていく天体の一つと言えるでしょう。
参考文献
- CBAT "Transient Objects Confirmation Page"
- vsnet-alert 12580, 12581, 12585, 12592, 12598, 12604, 12607
2010年1月14日