共生星という名前をご存知でしょうか。多くの共生星は、赤色巨星と白色矮星からなる連星系をなしています。形態としては、前回登場したような激変星のうち、赤色矮星の代わりに赤色巨星で置き換えたものとイメージしていただければわかりやすいでしょう。赤色巨星は恒星の進化の最終段階として一般的に質量を表面から放出しつつあるため、この放出されたガスの一部は白色矮星へと輸送され、一部は連星系の周囲をとりまいています。明るい天体の例をあげますと、変光星として有名なくじら座のミラも白色矮星と連星系をなしており、共生星のような系だと考えられています。
また、白色矮星に輸送された物質は白色矮星の回りに降着円盤を形成しており、矮新星などと同様にときおりアウトバーストをおこす系もあります。共生星、という名前は周囲のガスや白色矮星周囲の円盤から発される輝線と、赤色巨星から発される吸収線が同時に共生して観測されることに由来します。
ペルセウス座AXはh-Χ二重星団のそばにある共生星の一つで、通常は12等級くらいの天体です。この天体が11月20.637日に10.9等まで明るくなっているところを長崎県の前田豊さんが眼視観測の際に発見しました。また、新星や共生星をモニターしていたイタリアのパドバ天文台のU・ムナリさんらのグループも、独立にこの天体が2010年11月15.93日には12.33等だったところが11月19.97日には 11.73等まで明るくなっていることを報告しています。
測光観測に加えて、スキャパレリ天文台では分光観測も行われました。分光観測によると、増光前と同じく数多くの輝線が見つかっています。しかし、増光前と比べて水素のバルマー輝線や中性ヘリウム輝線はあまり変化がない一方で、電離ヘリウムや高電離の酸素の輝線などは強くなっており、中性酸素や高電離の鉄輝線は弱くなっていることがわかっています。
この星が明るくなるのは2009年の春以来なので、1年半ぶりの増光ということになります。さらにその前の増光は、1988年~1992年に4年もの長くにわたって明るくなっていたころにまで遡ることになります。この増光は非常に大規模なもので、もっとも明るい時には9等にまで明るくなっていました。このアウトバーストの際には、三重県の長谷川登さんによって海外に先駆けてこの天体が増光する立ち上がりの様子が捉えられるなど、日本の眼視観測者の方々による観測が大きな役割を果たしました。
また、冒頭にも述べたようにこのペルセウス座AXは連星系をなしており、その軌道周期は682日であることが知られています。地球から見てほぼ天体の軌道面を真横からこの見ているため、682日ごとに食を示します。平常光度にいる際はそれほど目立った食を見せないのですが、前回の1988~92年の増光中にはこの食が非常に深くなり、減光幅が3等近くに達しました。これは、増光が白色矮星とそのまわりを取り巻く円盤を隠す時に起こるため、増光中に白色矮星と円盤が赤色巨星に隠されると、増光による差がほとんどなくなってしまうためだと思われています。次の食は来年の夏頃になりますのでかなり先ではありますが、増光がその頃まで続いていればきわめて興味深いイベントとなるでしょう。
前述の大増光以前にも、10~数十年毎に増光を示していた記録があり、最後の増光から20年近くがたった現在いつ再び大増光があってもおかしくありません。特に、この天体は1988年の大増光の1年ほど前にも1等ほど明るくなったエピソードがあり、これは2009年の春にこの星が小規模な増光を示したのち、1年半ほど経った今また増光を示しつつあることと状況がよく似ています。これから1988年の時のように大増光へとつながっていくのか否か、目が離せないところです。
VSNETに寄せられた最近の観測は以下のとおりです。
20101104.523 115 (Hiroyuki Maehara 日本) 20101104.900 115 (Robert Fidrich ハンガリー) 20101110.085 119 (Gary Poyner イギリス) 20101115.062 118 (Gary Poyner) 20101120.637 109 (Yutaka Maeda 日本) 20101123.800 111 (Robert Fidrich)
参考文献
- CBET 2555
- 日本変光星研究会編「激変星資料」