春の星座として知られるヘラクレス座の端に、矮新星と思われる明るい天体の増光が発見されました。矮新星とは、近接連星系の円盤上にガスが降り積もることで、円盤の温度が急上昇して間欠的に明るくなる、という変動を示す天体です。
発見したのは、山形市の板垣公一(いたがきこういち)さんです。札幌の金田宏さんと共同で進めている彗星捜索の一環として21cmF3反射望遠鏡で撮影した画像から、11月21.35954日に12.0等(CCDノーフィルター)まで増光している天体を発見しました。その後、60cm反射により確認・測定を行い、発見報告がなされました。天体の位置は、
赤経 16時05分01.35秒 赤緯 +20度30分56.9秒 (2000年分点)
です。
この位置には、20等程度の暗い星があります。この天体はSloan Digital Sky Surveyと呼ばれるサーベイ観測が行われた際、得られたスペクトルなどの様子から激変星ではないかと考えられていました。なお、激変星とは、低温星と白色矮星からなる近接連星系で、このうちの低温星の物質が白色矮星へと流れ込む質量輸送が起きている天体です。超新星爆発の一部や新星爆発、矮新星増光などは激変星の一部が引き起こしている現象だと考えられています。増光していない時のこの天体の光度が20等前後であることから、増光した範囲は約8等ということになります。これは、矮新星の増光としては非常に大きいものです。そのため、矮新星の中でもや座WZ型矮新星と呼ばれるサブグループに属する天体である可能性が疑われます。このサブグループは、矮新星の中でも増光の間隔や範囲が大きく、また増光が長く続くことが知られています。
しかし、その後Andreev Maksymさんによって23.111111日に観測されたところでは、13.5等(R等級)と、発見当初に比べるとずいぶんと暗くなっています。これは、増光した際には1ヶ月以上に渡って明るい状態が続くや座WZ型の矮新星にしてはやや異例です。また、カリフォルニア工科大学のA. Drakeさんによれば、Catalina Sky Surveyというサーベイで2005年にもこの天体の増光らしきものがみられたことが報告されています。この増光は数ヶ月に渡っていますが、明るさとしては今回の増光に比べるとかなり暗く、18等程度までしか明るくなっていません。いずれにせよ、矮新星としてかなりユニークな天体である可能性が高く、これからの挙動が注目されます。
参考文献
- Szkody et al. AJ 137, 4011 (2009)
- vsnet-alert 12411
- vsnet-alert 12413
- vsnet-alert 12415