私たちの銀河系には多い年で年間10個程度の新星が発見されます。しかし、天の川に沿った方向は星々の間に漂うガスやチリの影響で天体からの光が吸収されてしまい見通しが効かないため、私たちが観測できる新星は銀河系の中に出現する新星のうちの一部です。近年では吸収の影響が少ない赤い光に感度の高い冷却CCDカメラがアマチュアの間にも普及したことから、CCDカメラを用いた新星捜索で、ガスやチリによる吸収の影響を強く受けた新星がいくつか見つかるようになりました。今回わし座とたて座の境界付近に発見された新星もそのような天体の一つと考えられます。
新星を発見したのは福岡県久留米市の西山浩一(にしやま こういち)さんと佐賀県みやき町の椛島冨士夫(かばしま ふじお)さんのチームで、これまでにも多数の新星を発見してきた捜索者です。お二人は9月11.485日(世界時、以下同様)に105mmレンズ+CCDカメラで撮影した2枚の画像からわし座に12.4等の新天体に気づきました。11.505日に40cm望遠鏡で撮影した画像から求めたこの天体の位置は
赤経: 18時47分38.38秒 赤緯:-03度47分14.1秒 (2000年分点)
です。この天体の分光観測は発見されたその晩のうちに京都産業大学の1.3m「荒木望遠鏡」と広島大学の1.5m「かなた望遠鏡」で分光観測が行なわれ、膨張速度がおよそ1500km/secの水素や酸素の輝線がみられることから、この天体が古典新星であることが確認されました。どちらの望遠鏡も大学附属の施設としての柔軟な運用体制と豊富な観測時間を生かして、突発天体の早期観測や長期間のモニター観測が必要な研究に用いられており、今回もその高い機動性を発揮して発見直後の分光観測に成功しました。筆者が行なった多色測光では、この天体は非常に赤い色をしており、波長の長いIcバンド(700-800nm付近にピーク)では10.5等でしたが、肉眼の感度のピークに近いVバンドでは16等と暗く、星間吸収の影響を強く受けているものとみられます。
今後の天体の変化に興味が持たれるところです。
かなた望遠鏡による分光観測結果:
http://kanatatmp.g.hatena.ne.jp/kanataobslog/20100912
荒木望遠鏡による分光観測結果:
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~arai6a/obslog/NovaAql2010.html
参考文献:
- IAUC 9167: N Aql 2010 (2010 Sep. 11)
2010年9月12日