北アメリカ星雲付近が騒がしい

著者 :山岡均(九大理)

夏の大三角形を形づくる星のひとつ、はくちょう座α=デネブの東側には、北アメリカ星雲NGC 7000と、ペリカン星雲IC 5070が広がっています。水素が出す赤い光(Hα光)で輝いていて、名前の由来となったその形状から、天体写真の好対象となっています。両星雲の間には、北アメリカ大陸の大西洋側の形を際立たせる暗黒星雲があり、数多くの星が誕生する現場になっています。

この領域で、急激に明るくなっている星が、相次いで2個発見されました。いずれも、星が誕生する過程で明るさを劇的に変化させている「オリオン座FU型星」と分類されています。まさに、星が産声をあげているところと言えるでしょう。(以下、日付はいずれも世界時)

1つ目の星は、ブルガリアの天文学者たちが発見しました。水素輝線が特徴的な天体として、HBC 722という符号が付けられていた星が、5月には17等ほどだったのに8月16日には14等ほどまで明るくなっていたのです。天体の位置は、

赤経  20時58分17.03秒
赤緯 +43度53分43.4秒  (2000年分点)

です。静穏時には19等ほどで観測されており、およそ100倍に明るくなったことになります。

2つ目の星は、山形市の板垣公一(いたがき こういち)さんが発見しました。札幌市の金田宏(かねだ ひろし)さんと共同で進めておられる彗星捜索の途上でのことです。8月23日に、フィルターなしCCDで13.8等ほどで写っている新天体に気付き、遡って調べたところ、昨年末には16.5等より暗かったものが、今年2月20日には15.6等、4月3日には15.1等、6月2日には14.7等と、徐々に明るくなっていたことがわかりました。この天体の位置は、

赤経  20時51分26.19秒
赤緯 +44度05分23.6秒  (2000年分点)

です。この位置を過去の可視光画像などで調べてみたところ、可視光や近赤外線ではほとんど何も写っていませんでした。一方、1980年代に活躍した赤外線天文衛星IRASや、現在活躍中の日本の赤外線天文衛星「あかり」による中間赤外線観測では、かなり明るい点光源としてカタログされています。どうやら、生まれつつある星に関係した現象のようです。

両天体とも、イタリアのアジアゴ天文台チームによって分光観測がなされ、オリオン座FU型の変光星であると分類されました。明るさの変化はこれからも続くものと思われ、今後も注目していきたい天体です。また、この領域は観賞用などで多数撮影されていますので、そのような写真や画像をお持ちの方は、今回の新変光星が写っていないかどうか、昔に遡ってチェックされてみるのも一興でしょう。

参考文献:

2010年8月28日

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