はくちょう座V407は天体写真の被写体として人気のある北アメリカ星雲(NGC 7000)のすぐ近くにある変光星で、写真による変光星の捜索を精力的に行なっていたゾンネベルク天文台のホフマイスターによって1940年に発見された天体です。後の調査により1936年8月に増光し、ゆっくりと減光したことが分かりました。この天体はその後の研究から、白色矮星とミラ型の変光を示す赤色巨星から成る連星系であると考えられています。この天体のような白色矮星と赤色巨星から成る連星で、連星系を赤色巨星から放出されたガスが取り囲んでいる天体のことを共生星と呼びます。この天体は国内のアマチュアによっても1980年代後半から観測されており、これまでの観測から、最も暗い時で17等、明るくなると11等ほどの明るさになることが知られていました。
ところが、この星が7等にまで増光しているのが発見されました。最初にこの星の増光を発見したのは、福岡県久留米市の西山浩一(にしやま こういち)さんと佐賀県みやき町の椛島冨士夫(かばしま ふじお)さんのチームで、これまでにも多数の新星を発見してきた捜索者です。
西山さんと椛島さんは3月10.797日(世界時、以下同様)に105mmレンズを装着したCCDカメラで撮影した画像から、7.4等の天体に気付きました。直後に40cm望遠鏡を用いて撮影された画像から測定された位置は
赤経:21h 02m 09s.83 赤緯:+45°46' 33".0
で、この位置ははくちょう座V407のものに一致します。また、今年1月〜3月の捜索画像には9〜10等で写っており、はくちょう座V407の増光として報告されました。この増光は群馬県吾妻郡嬬恋村の小嶋 正(こじま ただし)さん(11.789日)、長野県東筑摩郡の坂庭和夫(さかにわ かずお)さん(11.80日)、岡山県津山市の多胡昭彦(たご あきひこ)さん(11.815日)によっても、それぞれ独立に発見されています。
発見を受けて分光観測を行なったイタリア パドバ天文台のムナリさんらのグループは、この天体のスペクトルが過去に撮影されたこの天体とは全く異なり、共生星でかつ反復新星として有名なへびつかい座RSの新星爆発時のスペクトルと似たものになっていることを報告しています。また、岡山理科大学の今村和義さんと岡山県の藤井貢さん、美星天文台の綾仁一哉さん、筆者がそれぞれ行なった分光観測でも水素やヘリウム、1階電離した鉄などの輝線がみられ、通常の新星爆発のスペクトルによく似たものであることが分かりました。これらの観測結果から、はくちょう座V407は、新星爆発を起こしたことで、かつてないほど明るくなったと考えられます。
今回の増光で特異な点はその明るさの変化の速さです。今まで知られているミラ型変光を示す伴星を持つ共生星での新星爆発は、増光した後その後数年以上かけてゆっくり減光するという明るさの変化を示すものが知られています。ところが、この天体では13日に行なわれた観測で既に9等ほどまで暗くなっていることが報告されています。伴星がミラ型変光を示す段階にある共生星の新星爆発でこれほど速い変化を示すものはこれまで知られていません。また、1936年に起きた増光が今回と同様の新星爆発だったとすれば、へびつかい座RSなどと同様に、数十年程度の間隔で新星爆発を繰り返す反復新星である可能性もあり、この点からも、注目に値する天体であると言えます。
今後の明るさやスペクトルの変化の他、X線や電波など可視光以外の波長での観測結果が楽しみな天体です。
参考文献
- CBET 2199 (2010 Mar. 12)
- CBET 2204 (2010 Mar. 13)
- CBET 2205 (2010 Mar. 14)
2010年3月15日