星が爆発して急に明るくなる現象では、天体が見つかるとすぐに分光観測し、その膨張のようすを知ることがたいへん重要です。分光観測には専用の装置が不可欠で、またある程度の知識が必要なことから、誰にでもできるものではありませんでしたが、近年、公開天文台での研究学習体験の一環で、分光観測を経験することも増えてきました。今回、発見されたばかりの新星を分光観測したのは、岡山県井原市の美星天文台で開催された「星の学校」に参加した高校生たちです。
山形市の活発な天体捜索家である板垣公一(いたがきこういち)さんは、8月16.515日(世界時、以下同様)に撮影した画像で、10.0等級の新しい天体に気づきました。天体の位置は、
赤経 17時38分19.68秒 赤緯 -26度44分14.0秒 (2000年分点)
で、へびつかい座の最南部にあたります。この2日前の14.142日に、ASAS-3システムによって自動撮影された画像では、この位置に14等より明るい天体はなく、また以前の画像でも20等より明るい天体はありません。急激に明るくなった天体であることがわかります。
岡山県井原市にある公開天文台、美星天文台では、17日から19日の予定で、「星の学校2009」が開催されていました。高校生たちが101cm望遠鏡などを用いて、恒星や小惑星などを観測し、観測で得られたデータの解析とその結果の考察を行なうものです。発見報告に接して、岡山県立岡山操山(そうざん)高等学校の橘美希(たちばなみき)さんと田中亜紀子(たなかあきこ)さん、そして岡山県立岡山一宮高等学校の神田晃充(かんだあきみつ)さんの3人の高校生は、急遽観測対象をこの新星に定め、分光観測を行ないました。その結果、この天体は高速で膨張していることが判明し、星表面の爆発現象=「新星」であることが明らかになったのです。この観測は、世界的にもこの天体を分光した最初のものであり、新天体情報を広報する国際天文学連合の中央天文電報局電子回報(CBET)によって世界中に公表されました。
膨張速度がきわめて早いことなどから、この新星の明るさの変化は非常に速いものと推測されます。実際、発見翌日の板垣さんの観測によると、発見時よりも1等級ほど暗くなっています。明るくなるのも速かったことと合わせ、この推測は当たっていそうです。今後の変化にも注目していきたいところです。
これまで敷居が高かった分光観測が、公開天文台によって観測体験できるようになりました。新天体と出会うチャンスに巡り合えたことは、彼らにとって忘れられないものとなるでしょう。
参考文献:
- CBET 1910 (2009 Aug. 17)
- CBET 1911 (2009 Aug. 17)
2009年8月18日