新星の発見確認に公開天文台がまたも活躍

著者 :山岡均(九大理)

わたしたちの銀河系の中心方向である、さそり座やいて座といった領域は、星がたいへん多く存在します。星の増光を見つけても、どの星が明るくなったのか、どのような増光を起こしたのか、わかりにくいこともままあります。

この時に威力を発揮するのが、光を波長別に分ける「分光観測」です。ただでさえ暗い星の光を分けるためには、より多くの光を集めることができる大きな望遠鏡が不可欠ですが、大学や研究所の望遠鏡は観測スケジュールが決まっていることが多く、なかなか身動きがとれません。その代わり、日本では各地に公開天文台があり、機動力を活かした活躍を見せています。分光観測には高度な専門知識と装置が必要になるため、観測が可能な施設は限られていますが、いくつかの天文台では精力的に観測を行ない、世界的な貢献を果たしてきています。

福岡県久留米市の西山浩一(にしやまこういち)さんと、佐賀県みやき町の椛島冨士夫(かばしまふじお)さんは、4月21.681日(世界時、以下同様)に撮影した画像から、いて座に12.5等級の見なれない星を見つけました。ところが星表(星のカタログ)を調べてみたところ、この位置には、可視光では暗いけれども、赤外線ではやや明るい星があります。このような星は、変光幅の大きい赤色変光星である可能性が高いものです。

確認依頼を受けた、群馬県立ぐんま天文台の衣笠健三(きぬがさけんぞう)さんは、やはり赤色変光星かと考えたのですが、念のために4月27日に、口径1.5メートル望遠鏡を使って分光観測をしてみました。するとこの星は、赤色変光星の特徴を示さず、毎秒3000kmもの速度で膨張していることが判明しました。その他の特徴も、この天体は新星爆発であることを示しています。改めて位置を測定してみたところ、星表の星とはわずかに異なる位置となりました。前述の赤外線で明るい星とは違う星が、明るくなったのかもしれません。

赤外線で明るい星の位置(可視光の星表USNO-B1.0)
	赤経  17時44分08.478秒   赤緯 -26度05分47.37秒  (2000年分点)
        〃            (赤外線の星表2MASS)
	赤経  17時44分08.47秒    赤緯 -26度05分47.9秒   (2000年分点)
衣笠さんが測定した位置
	赤経  17時44分08.44秒    赤緯 -26度05分48.7秒   (2000年分点)

チリで天空の自動観測を行なっているASAS-3システムを調べてみると、この天体は4月19日に明るく(12.4等)見えており、22日と25日には暗くなっていくところがとらえられています。その前後、4月16日と30日には、写る限界(14.0等ほど)以下であったようです。現在ではさらに暗くなったものと思われ、新星のなかでも急激に変化するタイプのものだと推定されます。

平凡な変光星と即断せず、確認観測を行なった公開天文台の方の尽力と慧眼は、たいへん立派なものといえるでしょう。

参考文献:

2009年5月7日

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