【転載】VSOLJニュース(067)
天文の世界で「33年に一度」という言葉から何を連想されるでしょうか。しし座流星群をまっさきに思い浮かべられる方も多いと思いますが、変光星の世界でも「33年に一度」が世界の研究者・観測者の合言葉になっていた珍しい現象があります。
問題の天体はや座WZ(WZ Sge)と呼ばれる天体で、ふだんは15.5等程度の微かな星ですが、過去に1913年、1946年、1978年に約7等星に達する大きな爆発(アウトバースト)を起こしています。このように8等級もの増光を数十年に一度起こすことから、1970年代までは反復新星(VSOLJ ニュース 66参照)と考えられていました。1960年代から1970年代前半の観測技術の進歩に伴い、この天体が超短時間周期(1時間21.6分)の近接連星であることが明らかになりました。1970年代後半には「33年周期」から予測される次の増光の期待が高まり、「再増光発見」の誤報まであったとのことです。そして1978年の年末、この星は忠実に「33年周期」を守ってアウトバーストを起こしました。この1978年の増光に際して詳細な観測が行わ れ、この天体は新星とは異なり、爆発的な核燃焼を伴わない「矮新星」の仲間であることが明らかにされました。また、スーパーハンプと呼ばれる、軌道周期よりもわずかに長い周期の光度変化が見られることも発見され、この天体が矮新星の仲間でも、特にSU UMa(おおぐま座SU型)矮新星と呼ばれるグループに属することが明らかにされました。
33年の周期は矮新星の仲間で確実に記録されている周期の中では最も長く、1時間21.6分の超短時間の連星のいったいどこに33年の周期の周期を正確に刻む「時計」が存在するのか、多くの研究者を悩ませてきました。SU UMa型矮新星の中で、WZ Sgeのように10年から数十年に1度、非常に大規模なアウトバーストを起こす天体は、この星を代表星として「WZ Sge型矮新星」と呼ばれて、世界の研究者が巨大望遠鏡や人工衛星も用いて盛んに研究を行っています。
さて、次のアウトバーストはいつになるのか、と多くの人が期待していました。もし「33年周期」が正確に刻まれるのであれば、2011年ごろになりますが、その予想よりも10年も早いアウトバーストが観測されました。今回のアウトバーストの第一発見者は岐阜県の大島誠人(おおしま ともひと)さんで、7月23.565日(UT)に9.7等と観測され、渡辺努(わたなべ つとむ)さんを通じて即座にVSOLJ(日本変光星観測者連盟)と国際変光星ネットワークVSNETに通報されました。この報告を受けて京都大学の石岡・植村氏により確認観測が行われ、この天体がまさに急速に増光している途中である姿が観測されています。その後も日本各地、通報を受けた海外の観測者によって詳しく追跡されています。このような急速増光の時期に国際規模の詳細な観測が行われたのは、WZ Sgeの1世紀の歴史の中でも初めてのことです。「世紀の増光検出」に結び付いた大島誠人さんの日夜の観測と、その情報を的確に伝えるインターネットの発達によって、このような観測が初めて可能になったものです。
VSNETに報告されている「増光前夜」からの観測は以下の通りです。< の付いている光度は「天体が見えなかった」ことを示しています。
年 月 日(UT) 等級 2001 07 22.969 15.3 (M. Reszelski, ポーランド) 2001 07 22.980 <13.5 (P. Schmeer, ドイツ) 2001 07 23.028 <13.6 (H. McGee, イギリス) 2001 07 23.565 9.7 (T. Ohshima, 日本、発見) 2001 07 23.597 9.4 (H. Itoh, 日本) 2001 07 23.600 9.6 (H. Maehara, 日本) 2001 07 23.622 9.8 (T. Watanabe, 日本) 2001 07 23.716 8.6 (H. Itoh) 2001 07 23.885 8.4 (P. Schmeer) 2001 07 23.889 8.5 (E. Muyllaert, ベルギー) 2001 07 23.893 8.4 (G. Masi, イタリア), CCD 2001 07 23.894 8.6 (R. J. Bouma, オランダ) 2001 07 23.896 8.4 (P. Schmeer) 2001 07 23.922 8.6 (G. Poyner, イギリス) 2001 07 23.937 8.5 (M. Reszelski) 2001 07 23.938 8.1 (B. H. Granslo, ノルウェー) 2001 07 23.957 8.4 (M. Reszelski)
天体はさらに増光中と思われ、しばらくの間は強力な双眼鏡か小型望遠鏡で楽に見ることができるでしょう。VSNETでは、この貴重な現象の追跡観測のため、国際キャンペーンを行っています。CCDによる露出時間10秒程度の連続撮像によって、変動現象を捉える観測で、小型望遠鏡とCCDをお使いの方であれば参加可能です。 詳細は VSNET管理者 (vsnet-adm@kusastro.kyoto-u.ac.jp) までお問い合わせください。
VSNETの以下のページで今後のアウトバーストの進展や、新知見について紹介して行きますので、どうぞご覧ください。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/DNe/wzsge01.html
1世紀に数回という「新星発見よりまれな」現象を世界に先駆けて発見された大島誠人さんに心より拍手を贈りたいと思います。
2001年 7月24日
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