ゾンネベルク天文台(ドイツ)の写真から、Richterが1968年に12等星の新星様の爆発を起こしていた天体を発見し、ヘルクレス座新星1968と呼ばれていました。この天体は後にヘルクレス座V592 (V592 Her)と命名されましたが、写真記録から読み取られた光度変化は新星にしては特異で、新星とは少し異なる種類の天体、例えば特異な矮新星やX線新星(ブラックホール連星などで起きる突発的増光)ではないかと指摘されていました。しかし爆発後の同じ場所を詳しく調べても22等星よりも明るい天体は見当たらず、爆発の振幅は10等星以上と、既知の矮新星の変光範囲をはるかに超えることから、現在に至っても正体が判明していません。同じくゾンネベルク天文台のパトロール写真に1986年 5月12日に13.6等で写っていたことから、この天体の爆発は反復する現象であることが明らかになりました。次の爆発が期待され、多くの観測者による監視が行われてきたにもかかわらず、10年以上にわたって再爆発は見出されませんでした。(参考文献:発見の経緯については IBVS 293,再増光については IBVS 3619)
1998年 8月26.835日(世界時)、長く待たれていた再爆発がフィンランドのKinnunenによって12.0等で発見され、VSNETの速報ネットワークに通報されました。この発見の報告を受けてアメリカで確認観測が行われ、8月27日(世界時)に13.0等で観測されています。この天体がこのような明るい爆発現象を示したのは30年ぶりとなります。
天体の位置は
16h 30m 56s.37 (J2000.0) +21o 16' 58".3
ですが、1968年の写真からの測定のため若干の誤差が見込まれます。
VSNETに現在までに報告された光度は以下の通りです。< は天体が見えなかったこと(上限値)を示します。
YYMMDD(UT) mag observer 980822.887 <147 (G. Poyner, イギリス) 980822.910 <140 (T. Kinnunen, フィンランド) 980823.231 <146 (L. E. Shaw, アメリカ) 980823.506 <142 (T. Watanabe, 日本) 980824.819 <140 (T. Kinnunen) 980824.901 <153 (G. Poyner) 980825.899 <132 (P. Schmeer, ドイツ) 980826.835 120 (T. Kinnunen) 再爆発の発見 980826.862 123 (T. Kinnunen) 980826.915 125 (T. Kinnunen) 980827.181 130 (L. E. Shaw) 980827.192 130 (G. Hanson, アメリカ) 980827.269 130 (L. E. Shaw)
天体の素性については、新星(この場合は反復新星となります)、特異な矮新星、あるいはまだ未知の種類の天体の可能性も含めて確定されていません。今回の爆発の観測によってこの疑問が解かれることが期待されます。スペクトル観測、CCDによる連続測光観測のいずれもが非常に意義があります。新発見の事実については今後続報でお伝えできると思いますが、実際の観測方法の詳細や今後の時々刻々の情報の必要な方は、下記のVSOLJメーリングリストにご参加いただければ幸いです。
1998年8月27日