われわれの太陽系は、宇宙を見る「目」が良くなるたびにどんどん広がってきました。天体望遠鏡の発明によって天王星が見つかり、天体写真技術の発明は冥王星の発見につながりました。そして20世紀後半には、電子の目であるCCD素子の応用によって、より暗い天体を見ることができるようになり、1992年から冥王星付近に存在する小天体が続々と見つかりました。これらはエッジワース・カイパー・ベルト天体と呼ばれ、これまでに800個ほど発見されています。
これらの天体の中には、遠日点、すなわち太陽から最も遠い点が、100天文単位(1天文単位は地球と太陽との平均距離で1億5千万キロメートル)を越えるものもあります。そういう天体でも、近日点はすべて40〜50天文単位に収まっていました。つまり、大きな楕円軌道ではあるのですが、もともとベルト付近にあった天体が海王星の影響で跳ね飛ばされて外側へ膨らんだ軌道をもつようになったと思われています。
しかしながら、このような単純な理論では説明できない新しい天体が発見されました。昨年11月にアメリカ・パロマー山天文台の口径1.2メートル望遠鏡で発見された 2003 VB12 という仮符号を持つ天体です。その後、この天体の軌道を詳しく調べたところ、近日点はなんと76天文単位、遠日点が約1000天文単位、周期は1万年という途方もなく、大きな軌道であることがわかったのです。
この天体のサイズも特筆すべきものでした。正確な値は求められていませんが、推定直径は1000〜1600キロメートルほどです。これまで発見されているエッジワース・カイパー・ベルトの天体の中では、冥王星の次に大きな天体であると考えられます。発見者のグループでは、この天体にエスキモーの神話に登場する海の神の名前、セドナ(Sedna)と命名提案をしたようです。
ともかく、近日点がこれほど遠く、なおかつこれだけ大きな天体がどのように形成されたのか、その起源は簡単には説明できそうにありません。長周期彗星の故郷とされるオールトの雲の天体かというと、そうではありません。オールトの雲は遠日点が数万天文単位とさらに遠いからです。さらにいえば、第十惑星という話も一部で飛び交っていますが、この天体が惑星と呼ばれることはありません。一般に、太陽系の惑星は、その軌道空間を重力的に占有するような天体ですから、今後、他にも同様の天体の発見が期待され、なおかつ地球の数百分の一の質量しかないセドナを惑星と呼ぶことはないのです。
いずれにしろ、今回のセドナの発見は、太陽系に大きな謎を増やしたことは確かでしょう。われわれの太陽系が、21世紀もまだまだ外側へ拡がりそうな気配になってきたわけです。
* エッジワース・カイパー・ベルト天体 (Edgeworth-Kuiper Belt Object)アイルランドの天文学者エッジワースとアメリカの天文学者カイパーが、太陽系の外縁部には氷を主成分とする小天体のベルトがあるだろうと予見していたことから、彼らの名前を命名したもの。この小天体群は惑星になりそこねた小天体群であると思われ、現在では短周期彗星の故郷にもなっている。
2004年3月16日 国立天文台・広報普及室