【転載】国立天文台・天文ニュース(676)

すばる 惑星形成領域から結晶化ケイ酸塩鉱物を発見


 宇宙空間に漂うガスや塵の中から、どのようにして岩石の塊の地球のような惑星が誕生したのか? その謎を解く鍵のひとつとされているのが、「ケイ酸塩鉱物」というものです。

 ケイ酸塩鉱物というのは、地上ではオリーブ色をしたオリビン(かんらん石)や、火成岩に多く含まれる輝石、それにガラスの材料になる石英などで知られている鉱物の一群です。結晶になると、水晶などのように美しいものとなりますが、宇宙ではこういった結晶構造は作りにくいと言われていました。

 すばる望遠鏡に取り付けられた中間赤外線観測装置(COMICS; コミックス)は、Tタウリ型星と呼ばれる若い星の周りの塵の中に、地球の岩石と同じように結晶になったケイ酸塩鉱物を世界で初めて発見しました。

 地球の誕生を考えてみましょう。約46億年前、太陽の周りをガスや塵が取り囲み、その円盤(原始惑星系円盤)の中で、地球などの惑星が成長し、誕生したと考えられています。惑星を生んだガスや塵は、もともと宇宙空間に存在していたものです。地球は主に岩石でできた惑星として分類されていますが、その岩石のもとをたたせば、宇宙空間を漂う塵だったと考えられています。

 ところが、特定の物質に注目してみると、もともと同じだったはずの宇宙空間と地球の岩石や彗星とでは、結晶構造が異なっている物質があります。その代表がケイ酸塩です。宇宙空間では、ケイ酸塩は普通、結晶になっていません。これを非晶質(アモルファス)と呼んでいます。一方、地球の岩石や太陽系が誕生したときの情報をそのまま保っているとされる彗星の場合には、結晶化したケイ酸塩の塵が含まれています。

 ということは、地球などの惑星や彗星が誕生し、塵が取り込まれるときに、非晶質のケイ酸塩が、結晶化ケイ酸塩に変化したことがあったはずです。いつ、どのように、このプロセスが起こったのでしょうか? その手がかりが、これまで得られていませんでした。そもそも太陽質量程度か、それよりも軽い星の周りでは、結晶化したケイ酸塩が見つかっていなかったのです。(※注)

 すばる望遠鏡に搭載されたCOMICSは、その第一歩をふみだしました。東京大学、国立天文台、宇宙科学研究所、北里大学を中心とする COMICS 開発グループは、太陽と同程度の質量の若い星であるTタウリ型星を重点的に観測しました。狙った観測天体は、Tタウリ型星 Hen 3-600A と呼ばれる星です。この星がある領域は、星や惑星形成を詳しく調べるための格好の実験室です。なぜならば、われわれからの距離が約160光年と近く、誕生から約 1000 万年たった比較的進化の進んだ若い20数個の星が集まっているからです。その結果、Tタウリ型星 Hen 3-600A の周りにある原始惑星系円盤から、結晶質のケイ酸塩鉱物(かんらん石、輝石、シリカ)によるスペクトルを世界ではじめて検出しました。

 この観測から、太陽の質量程度の若い星においても、すでに円盤の中でケイ酸塩の結晶化が起きていること、その結晶化は恒星が誕生してから1000万年の間ですでに始まっていることが明らかになりました。またケイ酸塩の結晶化には600度もの温度が必要なため、原始惑星系円盤内でそのような加熱プロセスが起こっていることが示唆されました。

 本観測を中心となって進めた東京大学の大学院生・本田充彦(ほんだみつひこ)さんは「今後、さらに結晶質のケイ酸塩の分布がわかれば、ケイ酸塩の結晶化をもたらすダストの加熱プロセスの詳細に迫ることができるでしょう」と話しています。

参照

※注 もちろん、太陽よりも非常に重たい星の周りのダストや塵からは結晶化したケイ酸塩が発見されていました。しかし、重い星では温度環境も太陽とは全く異なるので、太陽系誕生の謎に迫ることはできません。そこで太陽系形成のなぞを解明するために、太陽質量程度の星で結晶化のプロセスがどのように進んだのかを明らかにする必要があったわけです。

2003年10月7日         国立天文台・広報普及室


転載:ふくはらなおひと(福原直人)

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