【転載】国立天文台・天文ニュース(669)

ハレー彗星観測の最遠記録、塗り替えられる


 1986年に太陽に近づき、現在はずいぶんと遠ざかったハレー彗星(1P/Halley)が、2003年3月にヨーロッパ南天天文台(ESO: European Southern Observatory)の口径8.2メートルの大型望遠鏡(VLT: Very Large Telescope)によって観測されました。太陽からの距離が42億キロメートルと、ほぼ海王星の距離で彗星が観測されたのは初めてで、世界記録の樹立になりました。

 ハレー彗星は、周期76年で太陽に近づく周期彗星のひとつです。周期彗星の中でもきわめて明るく、また有名な天体で、1986年の回帰時には各国の探査機が打ち上げられ、接近観測によって様々な成果が上がりました。彗星核の撮影によって、長さ15キロメートル、幅5キロメートルのジャガイモのような核の様子や、表面の反射率が4パーセントと非常に暗いことなどが明らかになりました。

 接近を過ぎても、ハレー彗星が太陽から遠ざかるにつれ、どのような振る舞いをするのかを知るために、地上の大型望遠鏡を利用して、しばしば追跡されてきました。遠ざかる途中、1991年に『アウトバースト』と呼ばれる増光を起こし、大量のチリを放出したことがありましたが、原因はわかっていません。ですが、その後は核からのガスや塵の蒸発等の彗星活動がほとんどないようです。

 1994年には、おなじくESOの口径3.5メートルの新技術望遠鏡(NTT: New Technology Telescope)によって、太陽から28億キロメートルのところで、明るさ26.5等で捉えられています。

 また、ハレー彗星に限らなければ、1997年にハワイ大学の研究者がケック望遠鏡(Keck Telescope)を用いて観測に成功したシューメーカー彗星(C/1987 H1)の例があり、太陽からの距離は30億キロメートルでした。

 これまでは、これらの観測が世界記録だったわけですが、今回は、3台の口径8.2メートルの望遠鏡を総動員し、合計9時間もの観測時間をかけ、1994年の5分の1ほどの明るさ、28.2等で観測に成功したのです。これは太陽からの距離の上でも、明るさの上でも、記録更新となりました。

 この観測は、ESOで行われている太陽系外縁部小天体、いわゆるエッジワース・カイパーベルト天体のサーベイ観測の一環で行われたもので、日本から国立天文台の若手研究者・木下大輔(きのしただいすけ)さんも参加しています。

 ハレー彗星は、現在も遠日点(軌道上で太陽からもっとも遠い点)に向かって少しずつ遠ざかっています。遠日点に到達するのは2023年12月、その距離は53億キロメートルとなります。もしかすると、遠日点付近でも大型望遠鏡で追跡ができるかもしれません。そして、再び太陽に回帰し、明るくなるのは2062年夏です。このときは地球にもかなり近づき、明るくなると予想されていますので、多くの人々が夜空を見上げることになるでしょう。

参照

2003年9月4日 国立天文台・広報普及室


転載:ふくはらなおひと(福原直人)

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