【転載】国立天文台・天文ニュース(651)
火星が話題になるにつれて、国立天文台にも問い合わせが増えてきました。その中で、大接近の時刻はいつか、という質問が寄せられています。
接近の日付は8月27日ですが、時刻となると、さらに細かな差が生じてきます。たとえば、単純に幾何学的な距離を採用するか、あるいは光の伝搬まで考慮した距離を考えるかで、だいぶ答えは違ってきます。国立天文台の相馬充(そうまみつる)さんの計算によれば、地球の中心(地心)と火星の幾何学的距離だけを考えた真距離をとると、最接近時刻は8月27日18時 51分 12秒となりますが、光の伝搬を考慮した光到達距離が最小になるのは、同日の18時 46分 19秒となり、5分も違います。後者の計算には効果は小さいながら、相対性理論効果(太陽の引力による光の曲がり)も算入されています。
これだけ細かなことを考えると、最接近を起こす時刻は、当然ながら地球上の場所によって異なってきます。上記の計算は地心でしたが、東京から火星が最も近づくのは、地球の自転のために東京が火星の方向に最も近づく効果がはいるので、真距離では8月27日23時 27分 58秒、光到達距離では同日の23時 27分 28秒となります。
さて、確かに火星は地球に大接近する前後に最も明るく見やすくはなるわけです。しかしながら、流星群などと異なり、前後に数日ずれただけでは見た目にはまったくその変化はわかりません。その意味で、火星大接近は前後1〜2ヶ月にわたって楽しめる天文現象です。また大接近の頃には、火星が南の空に上ってくるのが深夜になりますから、通常の観察から言えば、適当ではありません。むしろ、接近後1〜2ヶ月後の方が、火星が宵のうちにのぼってきますので、特にこどもたちにとっては適切な観察時期といえるでしょう。9月から10月にかけて、各地の施設で火星の観察会などが開催される予定ですので、それらにお出かけになってみてはいかがでしょうか。
2003年7月8日 国立天文台・広報普及室