【転載】国立天文台・天文ニュース(650)
今年8月末に、地球に大接近する火星が何かと話題となっていますが、7月に入って砂嵐が発生し始めたようです。
火星には、しばしば表面全体を覆ってしまうような大きな砂嵐が起こります。赤い火星が、巻き上げられた砂のために黄色く見えるので、黄雲(こううん)とも呼んでいます。火星には二酸化炭素が主成分の大気があります。その大気は非常に希薄で、地球の100分の1以下しかありません。さらに火星には水が少ないため、大気は一般にからからに乾いた状態です。季節の変わり目には、火星でもかなり強い風が吹き、砂がしばしば巻き上げられます。こうして砂嵐が起 きると、その砂は上空で太陽の熱を吸収して暖まります。すると、まわりの大気も暖まりますので、ますます上昇気流を加速し、どんどん大規模になっていきます。地球のように水蒸気が含まれていれば、上昇した大気中の水が凝結し、降雨によって嵐のエネルギーが吸収され、嵐の発達にブレーキがかかるのですが、火星では、このブレーキ役がありません。そのため、一旦ことが起きると、とめどなく大きくなって、全面を覆うようなものに発達してしまうのです。
実は現在の火星は、砂嵐の起こりやすい季節にあたっています。2001年の接近時にも6月末にヘラス盆地という場所で発生し始めた砂嵐が、どんどん発達して、7月中旬には全面を覆ってしまい、表面の模様がほとんど見えなくなってしまいました。今回も、やはりヘラス盆地の周辺で発生し始めた砂嵐を、アメリカ・フロリダ州のアマチュア天文家が報告しています。7月5日には、ヘラス盆地から東西方向に伸びているようです。もしかすると、あと1〜2週間で全面を覆ってしまうかもしれません。ただ、接近しているとはいえ、視直径は20秒以下ですから、大きな天体望遠鏡でも、かなり慣れた人でないと、その様子を見ることはできないでしょう。インターネットなどで、画像が公開されていますので、それらをつなぎ合わせて、砂嵐の発達を追いかけてみるのが現実的かもしれません。
なお、砂嵐が発生したヘラス盆地は、火星と地球の自転の関係で、日本からは現在見ることはできません。
2003年7月8日 国立天文台・広報普及室
訂正 「国立天文台・天文ニュース (647)< 星文化の宝庫、石垣島で「伝統的七夕」 を開催! 「南の島の星祭り 2003」」の1行目 沖縄県石垣島では、国立天文台のVERA(ベラ)電波望遠が完成したのを機に、 は 沖縄県石垣島では、国立天文台のVERA(ベラ)電波望遠鏡が完成したのを機に、 の間違いです。訂正させていただきます。