【転載】国立天文台・天文ニュース(644)
2003年3月29日に起きたガンマ線バーストは、残光がたいへん明るく(天文ニュース(627)参照)、また距離がたいへん近かったことで、さまざまな観測・研究が行なわれ、数々の新事実が明らかとなりました。6月19日発行のイギリスの科学雑誌ネーチャー(Nature)では、日本のVSNETグループのものをはじめとして、この天体に関する3本の論文が掲載されました。GRB 030329の興味深い点についてまとめてみましょう。
ガンマ線バーストがガンマ線バースト観測衛星HETE-2によって検出されたのは、2003年3月29日11時37分14秒(時刻はすべて世界時)です。衛星から地上に送られたデータを解析することで、天体の位置が直径4分角の円内と計算され、バースト発生から73分後に世界中に通報されました。この報を受けて、サイディングスプリング天文台と理化学研究所の観測者から、HETE-2の報告位置の範囲内に、12等台の新天体があることが間もなく報告され、続いて京都大学での観測から、最初の1時間でこの天体が0.5等ほど暗くなっていることが報告されました。この天体がGRB030329の残光現象であることが、ほぼ確実になったのです。これほど明るいガンマ線バーストの残光は初めてです。
残光は、発生翌日も16等台の明るさを保っており、世界各地の天文愛好家によって観測されることになりました。もちろん日本でも、Nature論文の共著となった、企業が設立した公開天文台であるダイニックアストロパーク天究館(滋賀)の高橋進(たかはしすすむ)さんと杉江篤(すぎえあつし)さん、大学院生で変光星の観測を趣味とされている前原裕之(まえはらひろゆき)さんをはじめ、何人もの観測者が残光をとらえたのです。日本の天文愛好家の方々が残光の観測に成功したのは、今回が初めてです。また、フィンランドでは、望遠鏡を眼で覗いて、残光を見ることに世界で初めて成功しました。
一方、残光の検出がバーストの75分後であったことから、それ以前にはもっと明るく、もしかすると肉眼等級にも達したのではないかという興味が持たれました。そのため、火球(流れ星の中でも特に明るいもの)観測を目的とした全天モニター画像などで、バースト前後のようすが調べられました。これまでのところ、バーストとほぼ同時の観測でも、5.1等級より明るい天体は見つかっていませんが、現在もこの調査は継続中です。バースト発見前後にしし座方向を撮影された画像がありましたら是非御提供いただけますようお願いします。
残光の明るさを切れ目なく測定した結果、明るさが非常に複雑に変化していたことがわかりました(VSNETグループ)。これまでの残光で観測されてきた直線的な変化は、観測点がまばらだったためと考えられます。変化の原因については今もさまざま議論がありますが、結論には至っていません。しかしこの観測は、残光のメカニズムの解明に大きな一石を投じたものと言えるでしょう。
残光の分光観測からは、距離を知ることができます。ヨーロッパ南天天文台のVLTによる観測で、ガンマ線バーストの距離は20億光年であると推定されました。これまでガンマ線バーストは、宇宙の深奥部、つまり非常に遠くにある天体であり、また昔の宇宙の現象であると考えられていましたが、今回の現象は20億光年という、宇宙全体の大きさから見て僅か6分の1足らず距離のところで起きたのです。そのうえ、20億光年の距離ということは、バーストが起きたのは20億年前、つまり私たちの太陽系が生まれた46億年前にくらべてもずっと最近のことになります。50億年前の宇宙は、今の宇宙とそうは違わないようすであったことがわかっていますので、ガンマ線バーストという現象も、現在の宇宙、すなわち私たちの銀河系で今起きてもおかしくないものであることになります。
その後続けられた分光観測で、通常の残光に見られる形のスペクトルに重なって、極超新星のものに良く似通ったスペクトルが現われてきました。残光現象に確実に関連した極超新星が初めて観測されたのです。今回の超新星成分には、超新星2003dhという名前が与えられました。5月にはすばる望遠鏡でも分光観測が行なわれ、超新星2003dhがこれまでの極超新星と比較されています。
以前に、弱いガンマ線バーストと極超新星が矛盾しない位置で観測された例がありましたが、残光は観測されませんでした。ガンマ線バーストを伴わない極超新星もいくつか観測されてきています。ガンマ線バーストと残光、そして極超新星の関係について、今後解明が進められることでしょう。
今回のGRB 030329では、
ということがわかりました。今後、今回のバーストを再現するモデル計算が行なわれ、さらに他のバーストにも同様のモデルを適用することで、ガンマ線バーストの謎がひとつずつ解かれていくことでしょう。
2003年6月23日 国立天文台・広報普及室
注:このニュースは、VSOLJニュース(106)(6月19日)を基に九州大学の山岡均(やまおかひとし)さんに再構成していただいたたものです。
国立天文台・天文ニュース (643) 気象庁のカメラが捉えていた6月16日の火球の画像が気象庁のお知らせのWebPageでも公開されました。
URLはhttp://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/press/0306/19a/meteorite.htmです。