【転載】国立天文台・天文ニュース(639)

世界初の巨大ブラックホール衝突現象の発見


岐阜大学・国立天文台・宇宙科学研究所・東北大学による合同研究チームは、米国にある電波干渉計「VLBA(Very Long Baseline Array)」を用いた1年半にわたる観測より、アンドロメダ座の楕円銀河 3C66B (距離約2.6億光年)の中心に、2つの巨大ブラックホールがあることを世界に先駆けて発見しました。

 巨大ブラックホールを中心に持つ銀河どうしが、宇宙空間ではかなり頻繁に衝突しており、その結果、銀河本体と巨大ブラックホールが1つに合体してしまうという仮説が20年ほど前から提案されています。これまで、銀河どうしの衝突は数多く見つかっていますが、その中心で合体している最中のブラックホールは見つかっていませんでした。それは、銀河中心の巨大ブラックホールが存在する領域が、地球からの観測では見かけ上非常に小さく、従来の観測方法では見分けることができなかったためです。

 岐阜大学工学部の須藤広志(すどうひろし)助手等は、遠くの電波源と目的天体を同時に観測し、2天体のデータを引き算することで、地球大気による電波ゆらぎを取り除く「相対VLBI」という新しい観測手法を用いて、数10マイクロ秒角という非常に高い精度で天体電波源の位置を計測することに成功しました。

 この観測手法は、昨年より観測が始まった国立天文台の天文広域精測望遠鏡VERA で用いられている方法です。VERA では2つの天体を同時に観測するため、それぞれの電波望遠鏡に2台の受信機が搭載されています。このため、観測天体と参照天体の間が2度角まで可能となります。

 須藤氏等は、米国全土に広がる10台の電波望遠鏡を同時に利用する電波干渉計 VLBA で相対 VLBI が可能な6分角以内にある2つの電波銀河として、参照天体 3C66A (距離約57億光年)と目的天体 3C66B (距離約2.6億光年)を選び出し、1年半にわたり計6回の観測を行いました。その結果、電波ジェットの根本が周期 1.05 年、軌道の長径 0.3 光年以下で楕円運動をしていることを突き止めました。このジェットの根本は巨大ブラックホールの1つに繋がっていると考えられます。ケプラーの法則を用いることで、お互いに回り合っている2つの天体の質量の和は、太陽の100億倍程度であると算出されました。

 研究グループは、このような狭い領域に存在する大質量天体候補として、2つの天体はブラックホールであると結論づけたのです。

 今後もこの観測プロジェクトは継続され、検出された巨大ブラックホールを追跡していきます。その結果は重力波や一般相対論の検証、また巨大ブラックホール生成の謎解きに大きな手がかりとなると期待されています。

参照

2003年5月23日            国立天文台・広報普及室

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【訂正1】「国立天文台・天文ニュース (637) 国立天文台4次元デジタル宇宙
     実験シアターの試験公開」で、「このプロジェクトは平成12年のス
     タート以来、・・・」とありますが、正しくは「平成14年」です。
     お詫びして訂正させていただきます。
【訂正2】「国立天文台・天文ニュース(616) 見えはじめた火星」で、「前回
     は紀元前57,537年までさかのぼ・・・」とありましたが、正しくは
     「紀元前55,537年」です。
     こちらも、お詫びして訂正させていただきます。

転載:ふくはらなおひと(福原直人)

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