【転載】国立天文台・天文ニュース(491)
もっとも明るいクェーサーとして知られる3C273から高速で流出しているジェットの中に、二重らせんに似た構造が発見されました。この構造は、主としてケルビン・ヘルムホルツ不安定(K-H不安定)によって生じたものと考えられます。
活動銀河核(Active Galactic Nucleus; AGN)には、光速に近い速度で、細く集中したプラズマのジェットを数メガパーセクの距離まで噴き出している特徴があります。このようなジェットは、相対論的な物質の挙動を探り、ブラックホールや銀河の降着円盤など、強力な宇宙現象を研究する場を提供します。しかし、この種の現象は一般に遠距離で起こっているため、詳細な観測は容易ではありません。
このようなジェットを研究するため、マックス・プランク研究所のロバノフ(Lobanov, A.P.)たちは、もっとも明るいAGNであるクェーサー3C273を、宇宙の超長距離基線干渉法であるVSOP(VLBI Space Observatory Programme)によって詳しく観測しました。これは有効直径8000キロメートルに分布する10個のVLBAアンテナおよびドイツ、エフェルスバークにある口径100メートルの電波望遠鏡によるアレイ観測を、人工衛星「はるか」を使ったVSOPで補完した形の観測です。地上の観測点に比べればはるか遠くに離れている「はるか」を使うことで、観測の解像度は3ないし4倍に向上します。
ロバノフたちはこの観測から、3C273のジェットに対し、軸方向に沿って見かけの0.1ミリ秒間隔で240枚の断面図を作りました。すると、ジェットに沿って粒子密度や電波放射が他の部分より一桁以上多い糸のように伸びた二本の構造が、互いに絡み合いながら伸びていることが確認されました。ロバノフたちはこれを「宇宙の二重らせん」と呼んでいます。そして、このような構造のできる原因は、上記のK-H不安定によるものと断定しています。K-H不安定とは、流体力学で、流速に不連続のある流れが平行して流れる場合に、その境界面がしだいに波打ち始める現象をいいます。それに加えて、ジェットの噴き出しの向きがおよそ15年周期で歳差運動をしていることも影響しているようです。
3C273は、「おとめ座」で約15億光年の距離にある、もっともわれわれに近いクェーサーです。理由はよくわかりませんが、3C273のジェットは両側に対称に伸びているのではなく、片側だけに観測されています。名前の3Cは電波源を示した3番目のケンブリッジ・カタログを意味するものです。
2001年11月1日 国立天文台・広報普及室