【転載】国立天文台・天文ニュース(490)
トロヤ群の小惑星パトロクロスも連星であることがわかりました。連星の小惑星の発見が続いています。
コロラド州ボールダー、サウスウエスト研究所のマーリン(Merline,W.J.)たちの国際観測グループは、ハワイ、マウナ・ケア山の口径8.1メートル、ジェミニ北望遠鏡による観測で、9月22日のJ、H、K'バンドによる直接撮像により、15.1等の明るさのトロヤ群の小惑星(617)パトロクロスが連星であることを発見しました。二つの天体は見かけ上0.21秒離れ、ほとんど同じ大きさで、明るさは0.2等しか違っていませんでした。
この追跡観測はやはりマーリンを含むメンバーで10月13日におこなわれ、今度は0.12秒離れた状態で観測されて、連星であることが確認されました。トロヤ群の小惑星に連星が発見されたのは初めてのことです。なお、9月21日と10月11日の観測では、ぎりぎりのところで二星に分解することはできませんでした。
トロヤ群とは、木星とほとんど同じ軌道をもち、木星とほぼ同じ速さで太陽の周りを公転している二群の小惑星です。群の一方は、太陽から見て角度で60度木星に先行する点L4を中心に集まり、もう一方の群は同じく60度遅れた点L5を中心に集まっています。これまでに発見されたトロヤ群小惑星の数は、この10月までに、L4中心に663個、L5中心に421個、合計1084個に達しています。今回のパトロクロスはL5に属しています。
パトロクロスは、1906年10月17日にハイデルベルクのコップ(Kopff,A.)によって発見された小惑星です。この群で最初に発見された小惑星(588)に、トロイア戦争で名高いギリシャ軍の英雄アキレウスの名がつけられました。そこからこの群をトロヤ群と呼ぶようになり、その後この群の小惑星の名には、慣習的にトロイア戦争の兵士の名が付けられるようになっています。パトロクロスはアキレウスの親友です。しかし、ギリシャ軍の内紛の犠牲になって、トロイア軍の勇士ヘクトールに殺されます。このへんの事情は、ホメロスの長編叙事詩「イーリアス」に詳しく述べられています。
2001年11月1日 国立天文台・広報普及室