【転載】国立天文台・天文ニュース(477)
25億光年も遠く離れた銀河団エイベル2218から、中性水素原子の発する波長 21センチの電波が観測されました。この距離は、これまで同じ電波が観測され た距離の約二倍に当たります。 水素原子は、静止座標系で波長21.12センチの電波を放射します。したがって、 この電波を観測して水素ガスの存在を検出することができます。しかし、この 電波は強度が弱いので、遠距離の天体から検出することはなかなか困難です。 オーストラリア、メルボルン大学のツワーン(Zwaan,M.A.)たちは、エイベル 2218と呼ばれる銀河団からこの電波の受信を試みました。これは赤方偏移が約 0.17もあり、およそ25億光年の距離にある銀河団です。この銀河団からは、波 長21センチの電波がドップラー偏移で約25センチに伸びて観測されます。この 観測に、ツワーンたちは、現在最大の電波望遠鏡のひとつであるオランダ、ウ エスターボルクの合成開口電波望遠鏡を使って、1999年7月から9月にかけて、 総計100時間以上の観測をおこないました。この電波望遠鏡は、口径25メートル のアンテナ14基を3.2キロメートルの範囲に配置したものです。その結果、期待 した21センチの電波をやっと受信することができました。 この電波の発信位置を高精度に知るため、ハワイの口径10メートル、ケック 望遠鏡でスペクトル観測をおこない、光学的に確認をしたところ、驚くことに、 その電波は銀河団の中心から出たものではなく、周辺部に遠く離れて存在する 渦巻銀河のA2218-HIから出たものであることがわかりました。銀河がたくさん 集中したところでは、それらを包む高温ガスからのX線放射が、そこに落ち込ん でいく銀河から水素ガスをはぎ取ってしまい、十分の水素がなくなってしまう ためと思われます。A2218-HIは銀河が集中しているところから離れた位置にあ るため、まだ多量の水素ガスが残り、21センチの電波を放射しているのでしょ う。たくさんの銀河が集中している銀河団の中では、このようなプロセスで水 素が減ってしまうため、星形成は急速に衰え、赤い銀河が増えると推定されま す。今回の観測は、このようなモデルやシミュレーションを裏付ける形の結果 となりました。 エイベル2218は、パロマー写真星図をもとにエイベル(Abell,G)が作った銀河 団のカタログ(エイベル・カタログ)の2218番目にある銀河団で、「りゅう座」 にあり、200から300個の銀河が集中しています。 参照 Zwaan,M.A. et al., Science 293, p.1800-1802(2001), Braun,R.,. Science 293, p.1781-1782(2001). 2001年9月20日 国立天文台・広報普及室