【転載】国立天文台・天文ニュース(464)
東京大学は、この7月に東京で開催されたシンポジウム「粒子シミュレーションによる天体物理学」で、天体物理学用に開発した、世界でもっとも演算速度の速いコンピュータ、グレープ-6(GRAPE-6)を発表しました。
コンピュータの演算速度は、通常フロップスという単位で表わします。1秒間に10回演算をすることができれば10フロップスです。汎用コンピュータで最速なのは、いろいろの説はありますが、たとえばローレンス・リバモア国立研究所のスーパーコンピュータの12.8テラフロップスが挙げられます。つまり毎秒12.8兆回の演算をします。これに対し、今回発表されたグレープ-6は、最速の浮動小数演算が30テラフロップスに達するものでした。
グレープはコンピュータですが、いわゆる汎用コンピュータではなく、重力計算の専用コンピュータです。二つの星の間に作用する重力は、それらの質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します。二つの星なら、そこにどんな力が働き、それぞれの星がどんな運動をするかは、コンピュータを使わなくても容易に計算できます。しかし、天体の数が数10万、数100万にもなりますと、計算量が爆発的に増えるので、それぞれの星の運動、全体としての変化を計算するのは容易なことではありません。この種の計算(N体シミュレーション)を専門に実行するのが、グレープなのです。
グレープは1980年代に、当時東京大学にいた杉本大一郎(すぎもとだいいちろう)たちのグループが開発したコンピュータです。これが高速なのは、相互の重力を計算する部分をソフトウエアによらず、ハードウエアの電気回路で直接おこなうところにあります。つまりその演算を、電子がその回路を通過するスピードで実行するのです。1989年に完成した最初のグレープの演算速度は120メガフロップスで、当時最速の汎用コンピュータに及びませんでした。しかし、改良を重ねるごとに速度が上がり、1995年に完成したグレープ-4で初めて1テラフロップスを突破、今回のグレープ-6でついに30テラフロップスに到達したのです。
惑星の形成、球状星団の進化、銀河同士の衝突といった問題の研究に対して、いまやグレープはなくてはならないコンピュータになっています。そして、少なくとも、世界の32の研究所に備えられ、たくさんの論文を生み出す原動力になっています。ちなみに、グレープ-6の価格は、フル装備で約5億円です。
2001年8月9日 国立天文台・広報普及室