【転載】国立天文台・天文ニュース(463)

若い星のジェットからのX線放射を観測


 ヨーロッパ宇宙機構(ESA)のX線天文観測衛星XMM-Newtonは、ごく若い原始星の連星であるL1551 IRS5のジェットから放射されているX線を観測しました。原始星のジェットからX線放射が観測されたのはこれが初めてのことです。

XMM-Newtonは、ESAが1999年12月に打ち上げ運用している大型の衛星で、X線観測マルチミラー望遠鏡を装備し、X線による各種の天文観測に活躍しています。いっぽうL1551は、リンド(Lynds,B.T.)が1962年に発表した暗黒星雲カタログの番号で、「おうし座」にある暗黒星雲を指します。この暗黒星雲は約500光年離れた位置にあり、星間ガスやダストが多量に集まっているところで、太陽のような恒星を盛んに誕生させている活発な星形成領域です。そしてIRS5は、その中に埋め込まれるように存在している、生まれてから100万年も経っていないほんとうに若い原始星の連星です。

 これまでの観測から、この連星は、それぞれの周囲にさしわたし20天文単位ほどのガスやダストの円盤をもっていることがわかっています。これは原始惑星系円盤として、将来惑星系を誕生させる可能性を秘めた円盤です。また、それに直交して、それぞれの星から分子ガスのジェットがほとんど平行に噴き出していること、その噴き出しは長さがなんと1000天文単位に達していることでも知られています。今回は、このジェット自体がX線を放射していることが確認されたのです。

 一般に、このような星では、星自体から放射されるX線の方がずっと強いので、ジェットからの直接の放射はたいへん観測しにくいのです。しかし、このL1551 IRS5では、円盤などの吸収物質が星自体のX線をちょうどうまく覆い隠している配置であったため、2000年9月に、XMM-Newtonによる5万秒もの露出によって、やっと観測ができたのです。ひき続いて、さらに2000年12月、および2001年3月に、カナリヤ諸島の口径2.6メートル光学望遠鏡による補足観測がおこなわれ、これらの観測を総合して、ジェットの温度は約10万度に達し、毎秒200ないし400キロメートルの速度で噴き出していることが測定されました。このX線は、おそらく熱起源によるもので、ジェットと周辺物質と衝突で生ずる衝撃波に関係すると推定されています。さらに今後の解析により、ジェットの組成について、周辺の物質とどのように作用するかについて、また惑星形成にどのように影響するかについて、新しい情報が得られることが期待されます。

参照

2001年8月9日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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