【転載】国立天文台・天文ニュース(452)

宇宙背景放射観測衛星MAPの打ち上げ


 アメリカ航空宇宙局(NASA)は、この6月30日に、ケープ・カナベラル空軍基地から宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background;CMB)を観測する衛星MAP(Microwave Anisotropy Probe)を打ち上げる予定です。MAPはこれまでにない高い分解能で全天のCMBを観測することが可能ですから、初期宇宙の状態を探るための重要なデータが得られると期待されています。

 宇宙背景放射CMBは、ビックバン後数10万年しか経っていない時代に宇宙が放射していた電磁波の名残りで、現在は天空のあらゆる方向から到来するマイクロ波として観測されます。1964年にこのCMBの存在を発見したのはベル研究所のペンジアス(Penzias,A.)とウイルソン(Wilson,R.)でした。この発見により、かれらは1978年にノーベル物理学賞を受賞しています。

 当初、このCMBは宇宙のどの方向でも一様であると思われました。しかし、その後に宇宙に銀河や恒星などが形成されるためには、そこには何らかの非一様性があるはずです。より精密にCMBを観測するため、NASAは1992年に人工衛星COBE(Cosmic Background Explorer)を打ち上げました。COBEはCMBの温度が2.73Kであり、そこに1万分の2度程度のわずかなゆらぎ、つまり温度むらがあることを突き止めました。

COBEの観測結果はすばらしいものでしたが、その角分解能は7度程度の大きなもので、ゆらぎのの状況を精密に知ることはできませんでした。初期宇宙の状況を知るには、どうしても、もう少し分解能の高い観測結果が必要です。今回打ち上げられるMAPは、これに応えて、0.3度の分解能をもつように設計されました。順調に進めば、COBEの結果よりずっと細かなゆらぎの構造がわかるはずです。これは、宇宙の進化を解明する宇宙論の研究にとって、非常に重要なデータとなるに違いありません。現在のビッグバン説を支えるインフレーション理論(宇宙の初期に、光速より速い急激な膨張があったとする説)を検証する上でも、これは欠くことのできないデータです。

 一方、ヨーロッパ宇宙機構(ESA)は、0.17度のより高い分解能をもつCMB観測衛星Planckを2007年に打ち上げる予定で、準備を進めています。その他、衛星だけでなく、地上基地から、あるいは気球からのCMB観測も計画されています。CMBはその観測に関しても理解に関しても、ここ10年が画期的な期間になることでしょう。

参照

2001年6月28日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

[天文ニュース目次] [星の好きな人のための新着情報]