【転載】国立天文台・天文ニュース(442)
リニア彗星(C/2001 A2 (LINEAR))が少なくとも3個に分裂しました。
3月末に、リニア彗星は1日に約2.5等という急激な明るさの増加を示したことが観測されました。これは予測をはるかに上回る増光でした。4月30日に、アリゾナ大学のハーゲンロザー(Hergenrother,C.W.)たちが、カタリナ観測所の口径1.54メートル望遠鏡による観測で、その核が二つに分裂し、東側の破片Aと西側の破片Bに分かれ、離れていくことに気付きました。さらにその後、セロ・パラナル山の口径8.2メートルVLT望遠鏡による観測で、西側の破片Bがさらに分裂して小さい破片Cを生み出していることがわかりました。このBとCはそれぞれ明るいコマに取り巻かれ、だるま型のたいへん奇妙な形に見えていました。これらの観測から、ジェット推進研究所のセカニナ(Sekanina,Z.)は、AとBの分裂が3月29.9日(世界時)に起こったもので、急激な増光は、この分裂に伴うものであったと推定しています。BとCの分裂は5月11日と思われます。
リニア彗星は、2001年1月3日に、見かけは小惑星状の19等の天体としてリンカーン研究所チームにより「かに座」に発見されました。その後、チェコ、オンドリヨフ(Ondrejov)天文台のプラベク(Pravec,P.)たちがコマを観測し、彗星であることが解ったものです。この彗星は5月末に0.78天文単位の距離で近日点を通過し、8ないし9等の明るさに達すると推測されていました。それが、上記のような激しい変化を見せたのです。
彗星核が分裂することは、それほど珍しいことではありません。たとえば肉眼彗星となることが期待されていた別のリニア彗星(C/1999 S4)の核が昨年7月に崩壊したのは、記憶に新しいことです。木星に衝突して話題になったシューメーカー・レビー彗星(D/1993 F2(Shoemaker-Levy9))もいくつにも分裂した破片になっていました。古くはビエラ彗星(3D/Biela)が1845年に分裂したことが記録されているなど、彗星核の分裂は何度も観測されています。主として氷で構成されている彗星核にはそれほど強度がないため、太陽、木星などに接近すると、潮汐力を受けて核が変形し、分裂すると考えられています。
今回分裂したリニア彗星は、現在「うさぎ座」の南西部にあり、全光度は約5等、ほぼ放物線の軌道をたどって、5月24.5日(世界時)に近日点を通過します。破片間の見かけの距離は、5月26日に対する予測値で、AとBの間が28秒、BとCの間が8秒です。
2001年5月24日 国立天文台・広報普及室