【転載】国立天文台・天文ニュース(438)
ハワイのマウナ・ケア山頂には、日本の「すばる望遠鏡」を含めて大望遠鏡をもつ天文台が10台以上も建設され、北半球における天文学研究の最前線になっています。しかし、最近になって、天文台建設に反対運動が高まってきました。
マウナ・ケア山には、1970年にハワイ大学の天文台が完成して以来、天体観測に最適の地として、アメリカ、ヨーロッパ、カナダ、日本が、相次いで巨大望遠鏡をもつ天文台を建設してきました。しかしこの山はハワイの原住民にとっては神聖な場所であり、雪の女神の住む故郷と考えられていました。そこに天文台を作るのは、彼らにとって山の神聖さを汚す行為だと考えられるのです。それだけでなく、マウナ・ケア山に棲む絶滅危惧種の昆虫を保護せよという環境保護団体の反対運動や、歴史的、文化的に価値のある地域を保全せよと主張する歴史、文化グループもあります。その結果、一部には、既に建設された天文台を山から引き下ろせと叫ぶ人もいる状態です。
問題は、このように反対運動をするグループが存在することだけではありません。法的にも問題が生じています。NASAは、天体の微細構造を観測する能力を改善し、系外惑星を検出するため、1997年から5000万ドルをかけて、現在の二つのケック望遠鏡を光学的に結合し、ケック干渉計にする計画を進めています。そのためには、これまでのドームの外に、少なくとも4基の小望遠鏡を設置しなければなりません。その建設に対し、連邦の「史跡保護法」による認可がおりません。そのため、昨年10月に建設を始めて、来年春には観測を開始したいというNASAの計画が暗礁に乗り上げています。この計画は、科学者、環境保護団体、ハワイ原住民グループが、2年にわたる議論と妥協の末に、観測地の拡張計画のひとつとして認めたものですが、それですらこの始末です。NASAは環境アセスメントを実施しその要項を出版し、環境保護に関心をもつ人々の理解を得て、なんとか認可を得ようとしています。
今後のマウナ・ケア山をどのようにするか、科学者によるマスタープランには、新しい三つの計画があり、その中には、まだ概念設計の段階ですが、分割ミラーによる口径30メートルの巨大望遠鏡建設計画も含まれています。これらを推進するために、天文学者はこれまでになかった新しい問題に直面しているといえましょう。開発と保全の限度をどのように考えるか。この問題は「すばる望遠鏡」をもつ日本にとっても、他人事ではありません。
2001年5月10日 国立天文台・広報普及室