【転載】国立天文台・天文ニュース(437)
高速で回転する中性子星は、重力波を放出しながら回転速度を落としていくことが、初めて明らかにされました。
中性子星は大質量の恒星の寿命が尽き、超新星として大爆発した後に残された、小さく、異常に高密度の星です。半径10キロメートルほどの大きさに太陽以上の質量が詰め込まれ、その密度は1立方センチメートル当たり5億トンに達します。そして、その星を構成する物質の大部分が中性子です。つまり中性子星は、原子核を作っている素粒子のひとつである中性子をぎっしり詰め込んている星なのです。
地球から、中性子星は周期的に電波を受信できるパルサーとして観測されます。そのパルスの周期から星の自転速度がわかります。たとえば、「かに星雲」の中心にあるパルサーは毎秒30回転をしています。毎秒1000回の回転をしているパルサーもあります。
理論から、誕生したときの中性子星は、遠心力で星が砕けてしまわないギリギリの、毎秒1000回を超す高速回転をしていると推定されます。しかし、観測される回転速度は一般にはずっと遅く、中には1回転に5秒もかかるパルサーもあります。どうしてこのように回転が遅くなったのでしょうか。ゆっくり回転するパルサーの存在はひとつの謎でした。
最近、ギリシャ、テッサロンキ大学のステルジラス(Stergioulas,N.)たち、およびカリフォルニア工科大学のリンドブロム(Lindblom,L.)たちが、この謎を解く手がかりをつかみました。高速自転をしている高密度星では、星の表面に生じるrモードと呼ばれる一種の波動が不安定になり重力波を放出する。このとき角運動量と回転エネルギーを持ち出し、中性子星の回転を遅くするというのです。かれらは、一般相対論による三次元の流体力学方程式を数値シミュレーションで解いて、この結果を導きました。その計算では、初期の角運動量の40パーセント、回転エネルギーの50パーセントが重力波放射によって失われたということです。
温度、粘性の効果など、計算にはさまざまな仮定がありますから、この結果が確実だとすぐにいうことはできません。しかし、中性子星が重力波を放出しながら回転速度を落としていく結果が得られたことは重要です。中性子星のモデル計算で、もはやrモードの効果を無視することはできません。場合によっては、このとき放出される重力波を地球上で観測できるかもしれないのです。
2001年5月10日 国立天文台・広報普及室