【転載】国立天文台・天文ニュース(432)
これまでに発見された中で最も遠い超新星SN1997ffは、宇宙膨張速度が減速から加速に転じたことを示しています。
SN1997ffは、1997年12月23日に、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、「おおぐま座」のハッブル深宇宙フィールドの中に26.8等の明るさで発見された、タイプIaの超新星です。その赤方偏移はz~1.7に達し、距離は約100億光年、これまで発見された超新星の中では最も遠距離にあります。
ところで、遠い銀河ほど早い速度でわれわれから遠ざかり、宇宙が膨張していることはよく知られています。そして、宇宙自体の質量による重力でこの膨張は減速しつつあるとこれまで考えられていました。しかし、超新星に対する最近の観測からは、この膨張速度が加速しているという驚くべき結果が得られています。これは、一定速度で膨張していると考えた場合より超新星の明るさが暗い、つまり超新星が期待よりも遠くにあるという事実から導かれた結果です。これに対し、暗いのはダストによる減光のせいだとか、宇宙の初期の超新星は暗かったのだなどという反論がありました。
しかし、この最遠の超新星SN1997ffの解析結果は、それらの反論が成り立たないことを示しています。これは、宇宙が一定速度で膨張していると考えた場合より見かけが明るいからです。たとえばダストによる減光が事実なら、遠い超新星はいっそう暗く見えるはずです。そしてこれは、宇宙が始めは減速しながら膨張し、途中で加速に転じたことで説明できます。100億年前、この超新星が爆発したときには宇宙はまだ減速中だったので、期待したより近い距離にあり、そのために明るいのです。その後数10億年経って、ずっと近い距離で別の超新星が爆発したときまでに、宇宙は加速に変わっていたと考えればいいのです。今回のSN1997ffは、最近の宇宙加速を直接に示したわけではなく、加速説に対するこれまでの反論を成り立たなくしたのだといっていいでしょう。
宇宙の膨張を加速させる力は何によるものでしょうか。それは宇宙に満ちている「暗黒エネルギー」によるといわれますが、その正体が何であるか、はっきりわかっているわけではありません。宇宙の加速を含めて、こうした説明をより確実にするためには、このように遠距離の超新星の観測データがさらに増えることが望まれます。
2001年4月19日 国立天文台・広報普及室