【転載】国立天文台・天文ニュース(419)
放射性同位元素を使って年代決定ができることは皆さんご存じでしょう。星 にも同じ手法を適用して、ある古い星の年令が125億年と求められました。これ は宇宙の年令に近いものと思われます。
放射性同位元素は環境条件に影響されず、いつでも一定の割合で崩壊して、 他の元素に変わります。たとえば炭素14は半減期の5730年ごとにその量が半分 に減ります。他に安定な元素があり、始めに炭素14との相対存在量が解ってい たなら、現在の相対存在量を測定することで、それまでの経過時間を知ること ができます。
パリ・ムードン天文台のケイレル(Cayrel,R.)たちは、ヨーロッパ南天天文台 のVLTを使って、金属欠乏星の高分散スペクトル観測を続けていました。そこで たまたま観測した「くじら座」の11.7等星CS31082-001に、ウラニウム238イオ ンによる385.96ナノメートルの吸収線があることを発見しました。地球外でウ ラニウムが検出されたのはこれが初めてのことです。ウラニウム238は半減期が 44.7億年で、100億年程度の年代決定にちょうど都合のいい元素なのです。
CS31082-001は銀河系ハロー部にある金属欠乏星で、鉄の存在比は太陽の800 分の1しかない種族IIの非常に古い星です。しかし銀河系の歴史のごく初期に起 きた超新星爆発で生じた中性子を取り込む「中性子捕獲」という現象を通して、 質量数の大きい元素の量が異常に増え、放射性元素のトリウム232やウラニウム 238が検出できるレベルにまで増加しているのです。トリウム232はこれまでに も検出され、年代測定にも使われましたが、半減期が140.5億年とやや長すぎて、 年令の決定精度が悪いのです。しかし、ウラニウムとトリウムの両方が検出さ れると、その相対存在比から、星の大気モデルや、初期の存在比の影響をあま り受けない高精度の年代決定が可能になってきます。
2001年2月22日 国立天文台・広報普及室