【転載】国立天文台・天文ニュース(414)

赤外光による暗黒星雲の観測


 新しい観測法によって、暗黒星雲の状態を明らかにする手がかりが得られつ つあります。

 恒星は濃密な分子雲から誕生します。これは現在の天文学では常識でしょう。 分子雲の主要な構成要素は水素分子ですが、水素分子はすぐに観測できるよう な信号をほとんど出さないので、観測が困難です。そのため、分子雲の観測は、 観測はしやすいけれど量のはるかに少ない分子を利用するか、連続スペクトル 観測で熱放射を検出するなどの方法によっています。しかし、これだけでは、 その物理構造を知るには十分ではありません。つまり、星が生まれる前の状況 はよくわかっていないのです。

 恒星誕生前の分子雲は、含まれるダストによって不透明になり、向こう側の 星を覆い隠して、星野の中に星の見えない暗黒の部分を作り出しています。そ のため「暗黒星雲」とも呼ばれています。

 ヨーロッパ南天天文台のアルベス(Alves,J.F.)たちは、このような暗黒星雲 を調べるのに、赤外光を利用しました。ダストが光を遮る性質は波長によって 大きく変わり、赤外波長の光はダストの中を比較的よく通過します。したがっ て、赤外波長で観測すると、可視光では見えなかった暗黒星雲の向こう側の星 が見えてきます。しかしこうして見える星はその星本来の色よりも長い波長で (赤化して)観測されます。この赤化の程度から、通過してきた暗黒星雲の中の ダスト量が推定できるのです。

 この考えに基づいて、アルベスたちは、バーナード68と呼ばれて「へびつか い座」にある、比較的太陽に近い(距離125パーセク)暗黒星雲を観測しました。 ヨーロッパ南天天文台の新技術望遠鏡(NTT)の近赤外カメラを使って、Jバンド (1.25マイクロメートル)、Hバンド(1.65マイクロメートル)、Kバンド(2.16マイ クロメートル)により、1999年3月の2晩の観測をおこない、さらに補足のため、 セロ・パラナル山のVLTで可視光の像を撮影しました。その結果、暗黒雲を通し て3708個の恒星を撮影することに成功しました。そのデータを整約して、バー ナード68は、12500天文単位の半径をもち、ほとんど等温(16K)で、太陽の2.1倍 の質量をもつ球状の分子雲であることが確認されました。また、かなり不安定 に近い構造で、これが重力崩壊を起こすと、星の誕生に結びつく可能性が大き いとも推測されました。これは、比較的孤立した太陽のような低質量星がこの ような暗黒雲から生まれることを示唆するような結果です。赤外波長による暗 黒星雲の観測は、今後、分子雲の構造について、より新しい情報をもたらして くれるに違いありません。

参照

2001年2月8日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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