【転載】国立天文台・天文ニュース(411)
パルサーは強い磁場をもち、急速に自転している天体です。磁場の強さは10の8乗テスラと、地球磁場の一兆倍にも達します。磁化の向きと自転軸の向きが異なるため、磁極の方向に放射される電波などが自転にともなって回転し、地球上の観測者はその放射が自分の方向に向いたときだけ、それをパルスとして観測します。このようなパルサーはこれまでに1200個以上発見されています。パルサーは超新星爆発の後に生まれる中性子星と考えられ、半径が10キロメートル程度しかないにもかかわらず、太陽程度の質量をもつという超高密度の天体です。
一方、マグネター(magnetar;磁石星)とは、通常のパルサーのさらに1000倍にも及ぶ強い磁場をもつ天体で、X線、ガンマ線の観測によりこれまでに何個か発見され、珍しい天体として天文学者の関心を集めています。通常のパルサーより早く自転速度が落ちると考えられています。
コロンビア大学のゴッセルフ(Gotthelf,E.V.)たちのグループは、X線観測衛星RXTE (Rossi X-Ray Timing Explorer)およびASCA(Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics)による観測によって、「わし座」の一角にあり、ケステバン75と呼ばれる超新星残骸の中にあるパルサーのPSR J1846-0258が、パルサーとマグネターの中間的な存在であることを発見しました。超新星残骸自体は1982年頃に発見された、見かけの直径が約3.5分のまだ若いものです。また、このパルサーは磁場の強さが10の9乗テスラの5倍程度と、パルサーとマグネターの中間で、生まれてから僅か1000年程度しか経っていないと推定され、0.32秒の周期で自転をしています。このパルサーは、かに星雲の中に見られるパルサーと同様のメカニズム、つまり自転速度を落とすことで放射のエネルギーを得ていると思われますが、PSR J1846-0258の自転速度の落ち方を1993年以来の観測から求めたところ、通常のパルサーより一桁大きく、この点はどちらかというとマグネターに似ています。つまりこれは、パルサーとマグネターの性質のそれぞれ一部を合わせもつたような天体なのです。
このように中間的なパルサーが発見されたことから考えると、これまで関係が薄いと考えられていたパルサーとマグネターは実はひと続きの中性子星で、初期の回転速度、磁場強度などの違いによる、その両極端を表わしているだけかもしれません。もちろんこれは単なる可能性であり、早急に結論の出る問題ではないことを忘れてはなりません。
2001年1月25日 国立天文台・広報普及室