【転載】国立天文台・天文ニュース(401)
最大の質量をもつ渦巻銀河の発見が報じられました。この銀河の質量はわれ われの銀河系質量の約4倍、これまで最大質量と観測されていた渦巻銀河の2倍 程度に達すると思われます。
この発見はヨーロッパ南天天文台のチームにより、チリ、パラナル天文台の VLTを使っての赤外観測によってなされたものです。この大質量の渦巻銀河は約 60億光年の距離の「きょしちょう座」にあり、太陽の1兆倍以上の質量があると 観測されています。そして、この銀河にはISOHDFS27という長たらしい記号がつ けられました。ISOはヨーロッパ宇宙機構赤外南天天文台(ESA Infrared Space Observatory)と呼ばれる人工衛星のことで、またHDFSはハッブル深宇宙南 (Hubble Deep Field South)といわれる「きょしちょう座」の一角を意味します。 つまりISOに搭載した赤外カメラで1995〜98年に調査した天球上の一部をハッブ ル宇宙望遠鏡が精査した南天の領域がHDFSで、その領域の銀河であることから ISOHDFS27と名付けられたのです。遠い銀河の質量は一般に太陽質量の1000億〜 5000億倍で、これまで最大の質量をもつと観測されていた渦巻銀河UCG12591で も6000億倍程度でしたから、今回の発見は、その上限をおよそ2倍に引き上げる ものになりました。なお、われわれの銀河系の質量は、可視部だけで太陽の 2000億倍程度です。
ところで、銀河の質量はどうして測定するのでしょうか。これは、その中心を 回る星の速度から計算します。原理的には、地球を回る月の速度から地球の質量 がわかり、太陽を回る地球の速度から太陽の質量が求められるのと同じことです。 中心の質量が大きいほど回転速度も大きくなります。中心からの距離に対して、 銀河を回る恒星の速度の変化を表わしたものを銀河の回転曲線といい、この回転 曲線から銀河の質量を求めることができるのです。しかし、遠い銀河で恒星の速 度を求めるのは困難な観測です。これだけ遠距離にある銀河に対する回転曲線を 求めたのは初めてのことで、大望遠鏡による赤外観測でやっと可能になったとい えましょう。このチームは、さらに100億光年の距離にある銀河の質量を求める 観測にも挑戦しているということです。
つけ加えておきますと、ここでは渦巻銀河の中で最大の質量であることを述べ ただけであって、その他の種類の銀河、たとえば楕円銀河には、もっと質量の大 きいものが存在することがすでに確認されています。
2000年12月14日 国立天文台・広報普及室