【転載】国立天文台・天文ニュース(397)

チャンドラが観測したM82


M82(NGC3034)は「おおぐま座」に位置し、1200万光年の距離にある不規則型 銀河です。X線源としてはじめて検出された銀河がこのM82です。星の形成が非 常に高い割合で進行しているスターバースト銀河で、赤外線放射量が非常に強 い特徴があります。局部銀河群のすぐ外側にあり、この種の銀河でM82はわれわ れにもっとも近いものです。

 X線源であることから、M82はこれまで、アインシュタイン、ROSAT、ASCAなど のX線観測衛星で繰り返し綿密な観測がおこなわれてきました。しかし、分解能 に限度があるため、これらの観測からは詳しい状況がわかりませんでした。昨 年から使用可能になったX線観測衛星チャンドラは画期的なCCD分光撮像装置 ACIS(Advanced CCD Imaging Spectrometer)を搭載していますから、これでやっ と微細構造の観測が可能になりました。

 アメリカ、カーネギー・メロン大学のグリフィス(Griffiths, R.E.)たちは、 1999年9月20日にチャンドラの4台のACISを使ってM82の観測を実施し、その中心 領域のX線源を詳細に調査しました。得られた主要な結果はつぎの通りです。  エネルギーの高い硬X線(2から10KeV)にしても、エネルギーの低い軟X線(0.5 から2KeV)にしても、M82の中心領域から放射されるX線には、いくつもの小さい 点状のところから放射されるコンパクトな放射と、拡散した部分からの放射に 分かれます。コンパクトな放射からは、観測限界フラックスまでに22個の点状 X線源が検出されました。その中でもっとも明るいものはすでに存在が知られて いて、太陽の400から500倍の質量をもつブラックホールと推定されます。また、 少なくとも6個はX線連星と思われます。ほとんどの点状X線源は超新星残骸とい う説がありましたが、そうではないようです。

 拡散した硬X線成分に関しては、大規模な電波放射から生じた相対論的電子の 逆コンプトン散乱によって生ずる非熱的なものであろうという推測がありまし た。しかし、今回の観測からはかなりの鉄の輝線が観測されました。この事実 から、X線放射の少なくとも一部分は熱的であることがわかります。硬X線成分 が主として熱的起源をもつとするなら、多少の仮定のもとに、その温度は4000 万度と計算されます。つまり、M82の中心部分1キロパーセク程度は、約4000万 度の高温プラズマで満たされている可能性が大きいのです。過去に、X線放射に よる風がM82から数10キロパーセクのところまで伸びている状況が観測されてい ます。高温フラズマがこのX線風の駆動力になり、銀河間への物質の噴き出しに 主要な役割を果たしているのかもしれません。

参照

2000年11月30日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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