【転載】国立天文台・天文ニュース(380)

銀河系中心部の恒星の加速度を観測


 われわれから2万6000光年離れたところに、銀河系の中心部と考えられ、「いて座A*」と呼ばれるコンパクトな電波源があります。その周囲を回ると推定される恒星の加速度が観測されました。これは、いて座A*が巨大な質量をもつブラックホールである可能性を強く示唆するものです。

 銀河系内を回転する恒星の運動を観測するには、一般に数100万年の規模の時間が必要です。現実に観測しているのは、その一瞬のスナップショットに過ぎません。しかし、中心部の近くなら運動速度も大きく一周の周期も短いはずですから、その変化を捕らえることができるかもしれません。

 こうした推測から、カリフォルニア大学のゲス(Ghez,A.M.)たちは、ハワイの口径10メートルのケック望遠鏡を使って、1995年以来、銀河系中心部の5秒角の範囲を、Kバンドでの高分解撮像を繰り返してきました。そして、1999年までの星の移動から、いて座A*近くの3個の星が曲線運動をしていることを突き止めたのです。そのひとつの星SO-1は、いて座A*からの距離が0.0144光年、速度が毎秒1350km、加速度が毎秒毎秒3mmと観測されました。この加速度は地球公転の加速度(毎秒毎秒6mm)と大差はありませんが、地球の速度が毎秒30kmであることと比較すると、中心の質量が太陽よりはるかに大きいことが推測されます。また、3星はいて座A*を取り囲む位置にあり、その加速度ベクトルは、いずれも、ほぼ、いて座A*の方向に向いています。以前の観測からは、いて座A*の位置に太陽の260万倍の質量があると計算されています。この事実を合わせて考えると、今回の観測結果は、いて座A*が銀河中心核のブラックホールである可能性を強く示しているものといえましょう。

 観測期間がまだたった4年ですから、こうして求めた加速度はそれほど精度がよいものではありません。しかし、さらに観測を続けることが期待されています。この観測は単に星の天球上の動きを調べただけのものですから、視線速度の観測を合わせればさらに精度の高い結果が得られるでしょう。ゲスたちが測定した恒星が中心核を回る軌道周期には15年といった短いものもあります。健康と多少の幸運があれば、その星が1公転するのを見ることもできると思われます。

参照

2000年9月28日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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