【転載】国立天文台・天文ニュース(379)
試作装置による室内実験で、角分解能0.1秒のX線干渉像を得ることに成功しました。これは将来ブラックホールの直接観測に道を開くものと期待されています。
ブラックホールを直接に見るとどのように見えるのでしょうか。光すら出さないブラックホールですから、おそらく真っ黒い孔のように見えることでしょう。
銀河中心にあるブラックホールはどうでしょうか。これは巨大な引力で周囲のガスやダストを引き付け、取り込んでいます。落ち込むガスはそのとき大きな位置エネルギーを放出し、このエネルギーはX線として放射されます。つまり、現実のブラックホールは、その周辺からX線が放射される形で観測できるのです。
近くの銀河、たとえばM87には、太陽の30億倍の質量をもつブラックホールの存在が推測されていて、その見かけのサイズはおそらく3から6マイクロ秒です。一般に近くの銀河のブラックホールを直接観測するためには、1から0.1マイクロ秒の分解能が必要と考えられています。しかし、口径2.4メートルのハッブル宇宙望遠鏡でも、実質的分解能は0.1秒程度ですから、1マイクロ秒の分解能を得るには、なんと240キロメートルの口径が必要になります。これはとうてい実現可能な数字ではありません。しかし、分解能を上げるには別の手段があります。小さい望遠鏡でも、たとえば二つを離した位置に置き、干渉計として使うのがその方法です。それぞれの観測データから、真の像はコンピュータ計算で干渉させて得ることができます。電波天文学ではこの方法は広く実用化され、一方の装置を宇宙空間に置くなどして、大きな分解能を得ることに成功しています。
X線は電波に比べると干渉させることがはるかに困難です。また、X線はその進行方向と1度以下の面でないと反射しませんから、X線望遠鏡を作るにはさまざまな高度の技術が必要です。
コロラド大学のキャッシュ(Cash, W)たちは、4枚の平面鏡を使うだけで、実用的なX線干渉装置を設計、試作し、実験室では、たった1ミリメートルの基線で、0.1秒の分解能を得ることに成功しました。実現までにはまだまだたくさんの問題をクリアしなければならないでしょうが、大きな装置で応用すれば、理論的にはこれまでのX線像の100万倍の分解能が得られるということです。ブラックホール周囲からのX線像を直接に得る可能性が生まれかけているのかもしれません。
2000年9月21日 国立天文台・広報普及室