【転載】国立天文台・天文ニュース(378)
オランダ、ユトレヒト大学のバン・カークウィク(van Kerkwijk, M)たちは、ヨーロッパ南天天文台のVLTの観測によって、孤立した中 性子星RX J1856.5-3754の近くに、衝撃波のような形をした星雲状の 光を確認しました。これは、この中性子星の謎を解く鍵になるかも しれません。
この中性子星は「みなみのかんむり座」の一角にあり、1992年に ローサットX線衛星によりX線源として発見されました。さらに1996 年にハッブル宇宙望遠鏡によって、25等より暗い天体として可視光 で観測され、ここから、直径が20キロメートル程度、表面温度が70 万度にも達する高密度の中性子星であることがわかりました。しか し、これまでに発見されている中性子星は、ほとんどがX線を放射す る連星であるか、あるいは電波のパルスを出すパルサーであり、こ のように孤立した形で何の活動も見せない中性子星は初めてのこと でした。中性子星は、超新星爆発の後に残された星の中心核の部分 です。しかし、このRX J1856.5-3754の近くに超新星残骸は見当たり ません。ここから推定すると、爆発後少なくとも10万年は経過して いると思われます。そうだとすると、どうして表面がこれだけの高 温を保っているのか、その点が大きな謎でした。
ひとつの考え方として、ガスが表面に落下することで高温を保つ というプロセスがあります。高密度の天体近くは重力が大きく、僅 かの物質の落下でも大きいエネルギーを生み出すからです。ただ、 そのためには、落下するガスが存在しなければなりません。
カークウィクたちはまず中性子星の位置を測定し、ハッブル宇宙望 遠鏡の観測と比べて、この中性子星が毎秒100キロメートルの速さで 移動していることを発見しました。ついでそのスペクトルを観測しま したが、そこには一本のスペクトル線もなく、それに代わって、星の すぐ近くで水素のバルマー輝線を発見しました。その確認のためにさ らに5時間の観測をおこなったところ、中性子星のすぐそばに衝撃波 のような形をした円錐形の星雲が光っていることがわかりました。こ れはおそらく中性子星からの放射で電離した星間ガスで、中性子星と の相互作用で円錐形になったものと思われます。こうして、とにかく 多少のガスが存在することは確かです。これらのガスが中性子星の温 度に影響しているのかもしれません。しかし、このガスだけで中性子 星を高温に保っておけるかどうか、よくわかりません。まだ、この中 性子星の謎がすべて解けたわけではないのです。
2000年9月14日 国立天文台・広報普及室