【転載】国立天文台・天文ニュース(376)

惑星状星雲ではなかったHen 2-90


これまで惑星状星雲と考えられていた天体が、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、惑星状星雲ではないことがわかりました。

 惑星状星雲は、太陽のようなあまり質量の大きくない恒星が、核反応によって光りつづけたその一生をほとんど終わり、周囲に放出したガスが光っているものです。ジェツト推進研究所のサハイ(Sahai, R)たちは、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野惑星カメラ2を使い、Hアルファ線によって惑星状星雲の撮像をしていました。そして、惑星状星雲として1999年9月28日に撮像したHen 2-90と呼ばれる天体が、どんな惑星状星雲にも似ていないことに気付いたのです。

 この天体は、ケンタウルス座の南端に近くにあり、日本からは見ることができません(赤経:13h09m36.36s, 赤緯:−61゜19' 36.3",(2000.0))。一見したところ、両側に細く集中したジェットを噴き出している、ダストに包まれた若い星(Young Stellar Object; YSO)のように見えます。ジェットは両側に対称で、やはり対称にその上に6対のこぶがあります。このジェットは毎秒170キロメートルに達する高速で噴き出し、天体の両側へそれぞれ10万天文単位以上も伸びています。どう見ても、これは惑星状星雲ではありません。ジェツトのこぶは、Hen 2-90のダスト円盤が約100年ごとに周期的に不安定になって、そのたびに多量のダストを放出したためであろうと推定している人もいます。しかし、チリ、ラ・シーヤ(La Silla)の15メートル電波望遠鏡(Swedish-ESO-Submillimeter Telescope; SEST)による観測では、中心の天体に直接結びつく分子は見られず、星形成作用があることは認められません。したがって、YSOではないように思われます。

 それでは、これはいったいどのような天体でしょうか。現在のもっともらしい解釈のひとつは、Hen 2-90がかなり古い星の連星だというものです。ひとつの星は表層から物質を噴き出している巨星であり、もう一方は白色わい星のような高密度星です。巨星から噴き出した物質の一部は重力で捕らえられ、円盤となって高密度星の周囲を回ります。そのダストの円盤で隠されるため、ハッブル宇宙望遠鏡の像ではこれらの星自体を見ることができず、いま見ているような像になるというのです。細く伸びたジェットは、円盤に関連した磁場によって生ずると考えられています。

 Hen 2-90が惑星状星雲でないことははっきりしました。しかし、その正体が確実にわかった訳ではありません。より納得のいく、より合理的な解釈がさらに望まれます。

参照

2000年9月7日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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