【転載】国立天文台・天文ニュース(374)

110メートル電波望遠鏡の完成


可動の一枚鏡としては最大の電波望遠鏡がほぼ完成し、この8月に完成の記念式典が挙行されました。

この電波望遠鏡は、アメリカ、ウエストバージニア州グリーンバンクに建設されたもので、口径110メートル、可動の一枚鏡としてはこれまでで最大のものです。そこから、巨大グリーンバンク望遠鏡(gargantuan Green Bank Telescope; GBT)と呼ばれています。鏡面が受けた電波を、鏡面の脇に取りつけた背の高い受信搭に送る特殊な構造をしていますが、受信搭は鏡面からずれた位置にあるので、観測視野を妨げることはありません。鏡面には2000個のパネルを配列し、熱や重力による構造の歪みを2209個のアクチュエーターを使って即時に補正することができます。パルサーを研究している天文学者は、GBTを使って,低周波帯を高感度で観測することを期待しています。また、100ギガヘルツまで対応できるなら、星間分子や恒星形成初期の研究者も、当然のことながら観測を希望することでしょう。しかし、そのためには鏡面パネルを25マイクロメートルの精度で制御しなければなりません。その目的で、位置測定のレーザー装置なども準備されていますが、現実の動作の確認はこれからです。

 しかし、実をいうと、このGBTはさまざまな問題を抱えています。まず、完成が予定より6年も遅れ、まず、予算を3000万ドル近く超過し、その支払い問題が未解決で、望遠鏡を管理するアメリカ国立電波天文台(National Radio Astronomy Observatory;NRAO)への引き渡しがおこなわれていないことがあります。NRAOは9月末までに引き渡しを済ませ、年末までにファーストライトを行いたいと望んでいますが、解決への裁定は、おそらく2001年になると思われます。

 つぎに、現在の電波天文学で使用する望遠鏡は、一枚鏡の巨大な電波望遠鏡から、小さい望遠鏡をたくさん配列するアレイ望遠鏡群へと変わりつつある事実があります。一枚鏡の巨大電波望遠鏡はこのGBTが最後のものであろうとほとんどの電波天文学者は考えています。NRAOは、現にチリのアタカマ砂漠に、アタカマ・ミリ波望遠鏡群(Atacama Large Millimeter Array; ALMA)を建設中ですし、ニューメキシコ州では超大型干渉電波望遠鏡群(Very Large Array; VLA)を運用しています。こうした点を考えると、GBTが時代遅れの装置になり、壮大な経費の無駄使いに終わるといったことのないようにと、われわれは願うしかありません。

参照

2000年8月31日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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