【転載】国立天文台・天文ニュース(368)
恒星に名をつける権利は誰にあるのか、この問題に天文関係者が巻き込まれています。
天体に関する命名は、すべて国際天文学連合がおこなっています。しかし、これとは別に、星に名を付ける権利を販売することが、外国でも、日本でもおこなわれています。固有名のついていない暗い恒星を希望者に選ばせて、そこに好きな名を付けさせるという形式が一般的です。購入者には星の座標とつけた名の入った証明書が送られます。アメリカでは1星30ドルから50ドル程度で、販売した会社は星の座標とその名の入った書籍を出版し、著作権によってこの星の名が守られると主張しています。自分の所有物でないものを売るのですから、買い手さえいれば、これはいい商売になるでしょう。アメリカで代表的なのが国際恒星登録社(International Star Registry; ISR)で、1979年以来百万星以上を販売したそうです。その他同様の会社が少なくとも5、6社はあるといわれます。
お金を払って星に名を付ければ、その名は公式のもので、天文学の世界でも使われると信じている人が多いようです。しかし、現実はそうではありません。そこで、天文関係者が「こういう商売はインチキで、それが公式の星名になるわけではない。乗せられてお金を払ったりしないように」という意味のことを述べたり、書いたりします。それに対し、ISRはその当人や所属機関に対して「中傷、誹謗で告訴する」としばしば脅しをかけています。「われわれは法律に違反する行為は何もしていない」と主張しているのです。その結果、訴訟に巻き込まれる面倒を避けるために、天文関係者が沈黙してしまうという悪順環が繰り返されていす。
確かに、厳密にいうと、星の命名権を販売することが法律に触れるかどうかは難しい問題です。消費者問題ニューヨーク支部(New York City Department of Consumer Affairs)は、ISRに「インチキ商行為で法律に違反した」として3500ドルの罰金を課しましたが、ISRはそれに応じることなく、正面から争う姿勢を見せています。
星は天文学者の所有物ではありませんが、それら命名会社のものでもありません。お金を払って名を付けてみたところで、それが使われなければ何の意味もありません。そのくらいなら、どの星でもいいから、自分で勝手に好きな名をつければいい。それでも結局同じことで、お金もかかりません。
2000年8月10日 国立天文台・広報普及室