【転載】国立天文台・天文ニュース(366)
肉眼彗星になると期待されながら、明るくならなかったリニア彗星(C/1999 S4)に劇的な変化が起きています。
この彗星は昨年9月27日にアメリカ・リンカーン研究所チームにより発見されたもので、当初は今年7月に肉眼で見えるかもしれないと期待されていました。7月23日には地球へ約5,565万キロメートル、26日には太陽に約1億1,445万キロメートルの距離まで近づいたものの、当初の予測よりも数等は暗く、肉眼で見ることは難しい7等台にとどまってしまいました。
しかし、その活動は変化に富んでいました。国立天文台三鷹にある口径50センチメートル反射望遠鏡(社会教育用公開望遠鏡)やローエル天文台によるモニター観測では、6月と7月に明るさを急激に上昇させる、アウトバースト現象が捉えられています。また、ハッブル宇宙望遠鏡の画像でも7月5日から7日にかけて、核から大量の塵を吐き出す様子が捉えられています。
さらに7月23日から25日にかけて、カナリー天体物理学研究所の研究者らが、リニア彗星の核が次第に崩壊し、細長く伸びていくのを捉えました。国立天文台のモニター観測でも、23日にはまだ頭部に点状の明るい集光部があったのに、29日には太陽と彗星を結ぶ方向に沿った直線状に伸びていることがわかりました。これは彗星核が完全に崩壊し、あるいは融けきってしまい、残された無数の塵が太陽と反対方向に引き延ばされたことによる構造と思われます。
国立天文台のグループでは、この彗星の頭部の形状変化が4年ほど前に出現したタイバー彗星(C/1996 Q1)に酷似していることを突き止めました。この彗星も核が直線状に伸びてから、1ヶ月程度で次第に拡散・消失してしまいました。リニア彗星も同程度の期間で雲散霧消してしまう可能性が高いと思われます。
実はタイバー彗星は、1988年に出現したリラー彗星( C/1988 A1)の軌道と似ていました。かつて数千年前に太陽に近づいた彗星が分裂した破片のひとつだったのでしょう。もしかするとリニア彗星もより大きな彗星の破片であったのかもしれません。
なお、国立天文台のリニア彗星の観測画像はホームページでご覧いただけます。
http://www.nao.ac.jp/pio/Comets/99S4/
2000年8月1日 国立天文台・広報普及室