【転載】国立天文台・天文ニュース(365)
さそり座デルタ星が明るくなっています。「星座の印象を変えるほどだ」との報告もあります。肉眼でたやすく見える星ですから、ぜひ見ておきましょう。もっと明るくなるかもしれません。
「さそり座」は、日本では夏の夕方に、南の空の低いところに見える星座です。この星の並びを尾を振り立てたさそりに見立てるのは、なるほどと思わせるものがあります。この形でいうと、デルタ星はさそりの頭のところにある星で、「理科年表」にはスペクトルがB型の2.3等星と記載されています。このデルタ星が、2.0等にまで増光しているのです。アルゴールやミラなどの規則的な変光星を別にすれば、新星以外でこのように眼視でわかるほどの変光があるのは、きわめて珍しいことです。
この変光に最初に気付いたのはアルゼンチンのオテロ(Otero,S)でした。6月30日、眼視観測中にこの星が明るくなっているのに気付き、国際変光星ネットワークに報告しました。その後、明るさはさらに増し、7月20日には2.0等に達したのです。
スペイン、バレンシア大学のファブリガット(Fabregat,J)たちは、スキナカス天文台の1.3メートル望遠鏡でこのさそり座デルタ星のスペクトルを撮影したところ、水素のH-アルファ線が輝線になっていることが明らかになりました。これは、さそり座デルタ星がB型星からBe型星に変わったことを示しています。通常のB型星ではH-アルファ線は吸収線です。これが輝線になっている星がBe型星で、添え字のeは輝線(emmision line)を意味します。Be型星は、一般に高速で自転するB型星で、遠心力によって放出されたガスで、星の周囲に円盤が生じていると考えられます。この円盤のでき具合によって、変光したり、スペクトル型が変ったりするのです。この種の変光の有名なものに、ヒッパルコスのカタログでは2.15等のカシオペヤ座ガンマ星があります。この星は1937年に1.6等にまで増光したのです。これもやはりBe型星でした。さそり座デルタ星も何かの理由で星からガスの噴出があって、それが今回の増光につながったのではないでしょうか。
さそり座デルタ星がどのように変化するか、今後をじっくり見守っていきたいものです。
2000年7月27日 国立天文台・広報普及室