【転載】国立天文台・天文ニュース(363)

生き残れるか、12メートル電波望遠鏡


 この7月で使用中止になるキットピークの12メートル電波望遠鏡を、なんとか存続させようという動きが起こっています。

 アメリカ国立電波天文台(National Radio Astronomy Observatory; NRAO)の口径12メートル電波望遠鏡は、財政上の理由から、今年7月いっぱいで運用を打ち切りにすることが決まっています。これは3月の天文ニュース(331)ですでにお知らせしました。しかし、この望遠鏡は、アメリカの電波天文学者が使用できる、たったひとつのミリ波望遠鏡です。この望遠鏡の使用をなんとか続けたいとの声が上がりました。ミリ波の望遠鏡は、冷たい分子雲の中で恒星が誕生するごく初期の状態を研究するのに欠かせない存在です。観測結果の一例を挙げれば、この12メートル望遠鏡は、最近も、銀河の中心近くで重水素を発見する成果を挙げているのです。

 立ち上がったのは、ツーソンにあるアリゾナ大学と、アマーストにあるマサチューセッツ大学で研究をしている天文学者数10名です。彼らは連合して、なんとか観測を続けることができるようにとこの6月に要望書を出し、この電波望遠鏡を所有しているアメリカ科学財団(National Science Foundation; NSF)との話し合いに入りました。

 7月末までに、これら大学の連合チームは、望遠鏡を運用する中間計画をNSFに提出する模様です。また、8月1日以降の望遠鏡使用のために、大学の連合チームは、非営利団体としてツーソンに研究組織(Research Corp.)を置き、15万ドルの寄付を用意しました。また、年末までに今後3年間の研究計画書を作ってNSFに提出する準備をし、なんとかして、望遠鏡の使用を継続できるようにと熱望しています。望遠鏡使用中止を予定している7月末までに、NSFはこれに対してどんな決断をするでしょうか。NSFの天文学関係のプログラム・マネージャーであるブレッキンリッジ(Breckinridge, J.)は、「天文の方々は解決策を大変熱心に探っている」と、その姿勢を評価していることが感じられます。

 現在アメリカがメキシコと共同でメキシコに建設しているミリ波用の50メートル電波望遠鏡は、2003年にならないと完成しません。

参照

2000年7月13日 国立天文台・広報普及室

お知らせ:次の木曜日の7月20日は国民の祝日に当たりますので、天文ニュースの発行は休ませていただきます。次回は7月27日に発行の予定です。


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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