【転載】国立天文台・天文ニュース(357)

電波天文学、ミリ波帯を確保


 電波天文学で使用するミリ波帯の割り当てが増加され、周波数領域が確保される見通しになりました。周波数帯でこれまで後退を重ねてきた電波天文学でしたが、今回辛うじて歯止めがかかったといえましょう。

 天体が放射する電波をとらえ、解析することで宇宙を研究するのが、電波天文学です。しかし、観測する電波は微弱なものが多いため、研究者は、大きな電波望遠鏡を作り、宇宙からのメッセージを聞き取ろうと、必死の努力をしています。

 ご承知のように、放送、通信などにも電波が利用されています。これら地上で作り出した強力な電波が観測周波数の近くで使われますと、そのノイズのためにかすかな電波はかき消され、電波天文観測はほとんど不可能になります。通常皆さんが使っている携帯電話1台を仮に月面まで遠ざけて置いたとしても、そこから出る電波は、もっとも強力な電波源天体とほぼ同じくらいの強度になるのです。現在観測しようとしている電波は、それよりはるかに弱いといえば、およその状況がわかるでしょう。これを避けるためには、放送、通信など商業用に使われる周波数と、電波天文の観測周波数を分離することが必要です。それでも、通信側は多くの周波数帯を利用する希望が強く、これまで電波天文学の周波数帯は削減される一方でした。そのため、電波天文学が生き残るのは難しいとさえいわれました。

 このたび、トルコのイスタンブールで開催された世界電波通信会議(World Radiocommu- nication Conference;WRC2000)では、各界の代表約2500人が周波数割り当てについて討議を重ねました。そこで、電波天文学サイドからの一致団結した強い要望により、電波天文学用として、周波数71ギガヘルツから275ギガヘルツ(波長約4ミリから1ミリに相当)までの帯域を保護することが最終的に決まったのです。これは、いままで確保されていた帯域幅より広く、周波数帯域の増加が認められたのは1979年以来のことでした。

 この帯域は、宇宙からの電波が地球大気を通して入ってくる窓のところにあたり、また興味あるいろいろの宇宙空間の分子が放射する電波の周波数が含まれているところです。暗黒星雲、超新星残骸などを研究するのにも是非必要な周波数域です。この決定で、電波天文学としては、ほっと一息つけたというところでしょう。この結果を「電波天文学の勝利」と呼ぶ声もあります。しかし、勝利というにはほど遠く、むしろ、「やっと生き残ることができた」というのが本音かもしれません。

参照

2000年6月22日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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