【転載】国立天文台・天文ニュース(356)

皆既時間の長い月食


 きたる7月16日から17日にかけて皆既月食があります。この月食は、皆既時間の長さでは、ほとんどトップクラスの月食です。

 食の始まりが16日20時57分、皆既に入るのが22時2分、皆既が終わるのが23時49分、食の終わるのが17日に入った0時54分で、全部で3時間57分の天空上のドラマです。日本では、始めから終わりまで見ることができます。

 今回の月食の特徴に、なによりも欠けている時間が長いことが挙げられます。皆既の時間だけで1時間47分もあり、月食の継続時間としては最長といっていいでしょう。これに匹敵する長さの月食を過去に探すと、なんと1859年8月14日までさかのぼらなくてはなりません。この月食は日本でも見え、当時の天文方の渋川家が観測した記録が残っています。また将来では、2123年6月9日まで待たなければなりません。ただしこれは、日本では見えない月食です。そこまで待たなくても、2011年6月16日に、皆既時間が1時間40分の比較的長い月食があります。この月食は日本で月の沈む頃に起こるので、皆既の終わりまで見ることができるのは西日本だけになります。

 月食は地球の影に月が入って起こる現象で、継続時間が長くなるために二つの条件があります。そのひとつは、月がなるべく地球の影の中心近くを通過することです。今回の月食では、月の中心は、地球の影の中心と角度で2分以下にまで近付きます。この条件がほとんど満たされているのです。

 もうひとつの条件は、月がなるべく地球から遠く離れて影に入ることです。地球から離れると影の直径が小さくなりますから、これは皆既時間を短くする条件ではないかとお考えになるかもしれません。しかし、地球から遠く離れますと、面積速度の法則によって月の運動速度が小さくなるため、影を通過する時間が延びます。このプラス効果が影の直径が小さくなるマイナス効果を上回るのです。その結果、月の距離が1パーセント遠くなると、皆既時間がほぼ1.6パーセント長くなります。今回は、7月16日1時(日本時)に月が遠地点を通過して、そのほぼ1日後に月食になりますから、この条件もかなりの程度満たされています。その結果、皆既時間がたいへん長くなったのです。

 月食の夜は梅雨明け前と思われますから、月が見えるかどうかが心配です。どんなに長い月食でも、曇って見えなければどうしようもありません。晴れて、心ゆくまで長い月食が観望できることを期待しましょう。

2000年6月15日 国立天文台・広報普及室

訂正:前回の「天文ニュース(355)」で、衝撃波の観測時刻を6月6日19時42分(世界時)とお知らせしましたが、これは6月6日15時54分(世界時)の誤りでした。お詫びして訂正いたします。


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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