【転載】国立天文台・天文ニュース(346)
木星近くで検出されていた微小なダストの流れが、衛星イオの火山からの噴出物であることが、ほぼ確定的になりました。
宇宙探査機ユリシーズは、1992年に木星近くを通過したとき、予期しない微粒子の流れに遭遇しました。この粒子は1マイクロメートル以下の大きさで、毎秒数10キロメートルの速度で、1日に数1000回もダスト検出器に衝突してきたのです。同様なダストの流れは、1994年に木星探査機ガリレオが木星に接近したときも観測されました。しかし、これらのダスト粒子がどこから来たのかはわかりませんでした。木星のリングが供給源だ、衛星イオかも知れない、シューメーカー・レビー第9彗星が起源だなどといろいろの説が出されましたが、その裏付けになる観測データはありませんでした。
ドイツ、マックス・プランク研究所のグラプス(Graps,A.L.)たちは、ガリレオが1995年12月に木星の周回軌道に入ってから最初の2年間に得られたデータ、すなわちダスト検出器がダストを観測した時刻の時系列のデータに対して、周波数解析をおこないました。その結果は、イオからダストが放出され、その荷電粒子を木星の磁気圏が捕らえたとするモデルと非常によく一致しました。具体的にいうと、イオの自転周期(42時間)、木星の自転周期(10時間)、およびそれらの干渉によって生ずる周期のところに鋭いピークが現れたのです。これは、ダストがイオから放出されたことを強く示唆するものでした。さらに、ガリレオがその流れに入ったときイオの位置がどこであったか、ダストの量をイオの放出量で説明できるかなどの検討を加え、また、想定される他の供給源からの可能性とも比較して、グラプスたちは、観測されたダストの流れがイオから生じたものと結論したのです。イオから生じたとしても、天体衝突によって生じた破片である可能性も残されていますが、観測したダストの大きさや量から、火山がその供給源であると推定したのです。
ガリレオ探査機が木星やその衛星を調査して得た華々しい成果に比べると、ダスト流の供給源を確定したことは地味な結果かもしれません。しかし、量は少ないとはいえ、太陽系のダスト源のひとつを突き止めた事実は決して小さいものではありません。2000年12月には、土星探査機カッシーニが木星をフライバイします。そのとき、カッシーニのダスト解析装置は、この流れを再確認するとともに、ダスト成分の分析をする予定です。そこから、木星近くのダストに関して、また新しい展望を開くことができるかもしれません。
参照
2000年5月11日 国立天文台・広報普及室