【転載】国立天文台・天文ニュース(345)
楕円型わい小銀河の中に渦巻構造が発見されました。
わい小銀河とは数100万個の恒星を含む小さい銀河のことです。数1000億の恒星からなる大きい渦巻銀河に比べれば目立たない存在ですが、小さいからといって、科学的につまらないわけではありません。たとえば大小マゼラン雲は不規則型のわい小銀河です。三軸不等の楕円体の形をしたわい小銀河もたくさんあります。これには、球に近い形のものから、葉巻のように長く伸びたものまで、いろいろです。
オーストラリア国立大学のジャーゼン(Jerjen, H.)たちは、ヨーロッパ宇宙機構(ESO)がチリに建設中の口径8.2メートルのVLT(Very Large Telescope)を使って、約5000万光年離れたところにある「おとめ座銀河団」の中のIC3328と呼ばれる楕円銀河の観測をおこないました。目的は、「表面輝度ゆらぎ法(The Surface Brightness Fluctuation method)」によって銀河団までの正確な距離を求めることにありました。
輝度のゆらぎを求めるため、IC3328に対し、観測した光量からなめらかな成分を差し引いたところ、驚いたことに、そこに鮮やかな渦巻構造が現れたのです。つまり、楕円銀河の中に渦巻構造が含まれていたのです。これは誰もがまったく予想しなかったことでした。この構造はどうしてできたのでしょう。また、何を意味するものでしょう。詳細はまだ明らかではありません。いまのところ、二つの考え方が提案されています。
ひとつは、IC3328が通常の渦巻構造をもつ薄い円盤型の銀河をその中に含んでいるという考え方です。IC3328が単なる円盤型銀河である可能性も残されていますし、あるいは楕円体分布の恒星の中に円盤型銀河が埋め込まれているのかもしれません。現在のデータからは、この区別がはっきりつけられません。
もうひとつは、IC3328の近くにある二つの暗い楕円銀河の潮汐力が、渦巻構造を作ったという考え方です。ここからできる渦巻構造は一時的なものですが、潮汐力が渦巻構造を作ることはすでに知られています。
いずれにしてもこの発見は、宇宙の中に、思いがけない事実がまだまだあることを思わせます。
参照
2000年5月9日 国立天文台・広報普及室