【転載】国立天文台・天文ニュース(338)

チャンドラと宇宙背景X線


 昨年、スペースシャトルから放出された大型X線望遠鏡衛星チャンドラが、宇宙背景X線の起源を明らかにしました。

 1962年に打ち上げられたエアロビー・ロケットに積んだガイガー計数管が、太陽系外からやってくるX線を初めて検知して以来、宇宙背景X線(cosmic X-Ray Background; XRB)の起源は、天文学者を深く悩ませてきました。これらのX線が、銀河間に広がって分布する高温ガスによる放射なのか、それとも何か個々の特定のX線源に分解できるのかという問題です。解決がつかないまま、30年あまりが経過しました。

 1990年代になって、やっと背景X線のうち、軟X線成分のほとんどを個々のX線源に分解することができました。そして、その発生源が主としてクェーサーであることがわかりました。しかし、観測されるそのX線スペクトルの形が、個々のX線源スペクトルの和の形とまったく合わないという問題が残りました。これは、途中に存在するガスやダストが透過力の弱い軟X線を吸収するためと推測されます。またエネルギーの大きい硬X線の起源は謎のままでした。

 NASA、ゴダード・スペースフライトセンターのマショツキー(Mushotzky, R.F.)たちは、1999年12月3日から4日にかけて、チャンドラにより、「りょうけん座」にあるSSA13と呼ばれるハワイ深宇宙調査フィールド(中心位置:赤経13h12m21.40s、赤緯42゜41'20.96")の観測をおこないました。その観測データを解析した結果は、宇宙背景硬X線の少なくとも75パーセントが、個々の起源天体に明らかに分解できることを示していました。その起源天体の大部分は、遠距離にある銀河の活動銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)だったのです。AGNとは、銀河の中心部にあって、異常に大きいエネルギーを生み出している放射源のことで、そこにブラックホールが存在すると考えられています。

 さらに、チャンドラの観測によって得られたX線スペクトルは、ガス、ダストによる吸収を仮定したモデル計算と全体的に非常に良く合うことが確かめられました。今回だけの観測ではまだ不十分の点もありますが、チャンドラの観測は、宇宙背景X線に関する永い間の疑問をほぼ解決したといっていいでしょう。

参照

2000年4月6日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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