【転載】国立天文台・天文ニュース(332)

見かけの違う火星の南北両極


 火星を回って観測を続けている探査機、マーズ・グローバル・サーベイヤーは、分解能の高い火星表面の画像を送り続けています。それらの画像から、南北両極の極冠がかなり異なった地形を示していることが明らかになりました。

 極冠とは、火星の南北両極に残っている氷の広がりです。火星の自転軸は公転軌道と約25度の傾きをもち、23.4度の傾きの地球と似ていますから、極地域が低温で、氷が残っている理由は容易に推測できるでしょう。この氷の形状が南と北とで大きく違っているのです。

 火星の北極は、比較的平坦で、くぼみや、割れ目、隆起やコブなどがありますが、いずれも小さいものです。これらのくぼみは近接していくつも並び、春から夏の季節にゆっくり成長したのではないかと思われます。NASAの担当者は、この形を「コテージ・チーズのようだ」と形容しています。これに反して、南極はくぼみが大きく、すり鉢の内側のような縞になった凹凸、平たい丘などが発達しています。表面が浸食されて平らな丘がとり残された形です。これは「薄切りにして放置されたスイス・チーズ」と表現されています。

 この状況は、分解能の高い画像からはじめてわかったものですが、この違いはいったいどこから生じたものでしょう。多分、この両地域が数1000年も、場合によっては数100万年もの間、違った気候にさらされ、異なった歴史を歩み続けてきた結果かと思われます。パサデナ、カリフォルニア工科大学のインガソル(Ingersoll, A.)は、「北の極冠で夏でも残っている部分は水の氷であり、南の極冠は二酸化炭素のドライアイスのように思われる」と述べています。しかし、これは単に見かけの形状だけから推測したものです。これらの氷の厚みが数メートル程度なのか、数キロメートルもあるのかはわかっていません、

 「もし極冠に水があったとしたら、なぜ二酸化炭素がないのかが謎として残る」ともインガソルはいっています。地球なら、海中の生物が二酸化炭素を石灰岩に変えますが、海もなく、生物もいない火星では、二酸化炭素は大気中に残るはずです。したがって、火星表面で発見できると思われるからです。

 しかし、地球でも、南北両極の様相はかなり異なっています。火星で南極、北極が異なっているのは、ある意味では当然かもしれません。

参照

2000年3月9日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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