【転載】国立天文台・天文ニュース(331)
アリゾナ州、キットピークにあるアメリカ国立電波天文台(National Radio Astronomy Observatory; NRAO)の口径12メートル電波望遠鏡は、緊縮財政の犠牲になり、この7月で使用が中止されることになりました。
この電波望遠鏡は1967年に建設され、1984年に改良工事が施されて、これまでずっと運用されてきたもので、アメリカで実用に使われているただひとつのミリ波電波望遠鏡です。星間分子の初期の研究に使われた草分け的な装置ですが、現在も年間150人以上の研究者が訪れ、さまざまな観測をおこなっています。 NRAOはニューメキシコ州に超大型干渉電波望遠鏡群(Very Large Array; VLA)、またハワイから北東カナダにかけて10基のパラボラアンテナからなる超長基線群ネットワーク(Very Long Baseline Array; VLBA)などを運用している上に、ミリ波観測のため、強力なアタカマ・ミリ波望遠鏡群(Atacama Large Millimeter Array; ALMA)を南米に建設計画中で、年間3250万ドルの経費を計上しています。ALMAは今後10年のうちには観測できるようになると期待されていますから、それまでは12メートル望遠鏡を活用したいと、多くの人が希望をもっていました。しかし何年にもわたって運営費は増加せず、ついに、このミリ波望遠鏡の使用停止の止むなきにいたったのです。この停止で年間200万ドルの節約が見込まれているとのことです。24人の職員は職を失いますが、半数程度はALMAの仕事に移ることが期待できるようです。
電波天文学者にはこの観測停止を残念に思う人が多く、ミリ波電波天文学に学生をひきつけ、教育することが困難になると心配している人もいます。
すでにお知らせしたように、日本でも国立天文台の堂平観測所が閉鎖されます。長い歴史をもつ渋谷の五島プラネタリウムも来年3月で閉鎖と聞きました。始まりがあれば終わりがあるのは世の常ですが、天文施設が閉鎖されるのは、関係者には、何かうら悲しい思いを感じさせます。
参照
2000年3月9日 国立天文台・広報普及室